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カタカタとパソコンのタイピング音が響く。
リビングの机に向かい何やら作業をするAの姿はすっかり仕事モードである。
そんな彼女の前で同じく作業していた銀八は手を止め「んーーー…!」と固まった体を伸ばした。
「珈琲でも飲む?」
『んー… 脳が糖分を欲してる…』
「ふは、んじゃココアにするわ」
立ち上がりキッチンへ向かう銀八にAは手を止めず仕事を続けた。
少しして甘く良い香りが漂ってくる。
「はい、」
手元横に置かれたマグカップには熱々のココアが注がれていて、Aは漸く手を止めた。
『有難う』
銀八の方を向きそう御礼を言うとさっそくマグカップを手に取ったが、ふぅふぅと一生懸命に熱を覚ますばかりで一向に飲めそうにない。
『熱…ッ』
恐る恐る口を付けたがまだ熱かったようで、Aは舌を出した。
「猫舌なんだから気をつけろよ」
『もう遅い…』
「少し冷ましてやれば良かったな」
『でも暖かいココアが好きなの』
「難儀だな」
銀八は苦笑しつつ、Aのパソコンを覗き込む。
「家で仕事してんの珍しいじゃん」
『うーん…』
マグカップを机に置き、再びパソコンのキーボードを弾く彼女はもう何も聞こえていない。
難しい顔して集中しているのを見る限り、余程重要な仕事を任されたか…。
頼まれては断れない性格故、たまにこういう時もある。
銀八はAの頭をそっと撫で定位置のソファに戻った。
.
.
.
『んーーー…』
ひと段落ついたAは固まった体を目一杯伸ばした。
銀八が淹れてくれたココアはすっかり冷めてしまっていて今ではもう冷たい。
冷めたココアを一気に飲み干し、彼が居るであろうソファを見た。
そこにはソファに横になり眠っている銀八の姿がある。
『寝ちゃったか…』
Aは小さく笑って寝室からブランケットを取りに行った。
ソファから少しはみ出る彼の体は少しだけ寝苦しそうだったが起こさないよう静かにブランケットを掛けた。
Aは床に座り、その寝顔を側で見る。
眼鏡を外した銀八の姿は少し幼くて可愛い。
「ん、A…? 終わった…?」
『あれ、起きちゃった?』
「…ブランケット、掛けてくれたんだ」
『まぁね』
「さんきゅ」
まだ眠気があるのか、銀八はそうお礼を言いつつもゆっくり瞼を閉じた。
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作者名:アカツキ | 作成日時:2024年1月14日 0時