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「仕方のないこと」というのはこの世にはたくさん存在していて、本人達が気付いてないだけでそこらにごろごろと転がっているものだ。
だからこれも「仕方のないこと」。
この言葉はそれ一つで片を付けてしまうような便利な言葉でもある。
「A」
『土方、さん』
「こんな時間に、…仕事帰りか?」
『いいえ。土方さんこそ飲みの帰りですか?』
Aは極力いつも通りを装って土方と会話していた。
気を抜いたら胎の底から花が舞い散ってしまいそうだからだ。
「行こうと思ったんだが辞めた」
『そうなんですね』
「…なァ、A」
『"何も"言わないで』
ピシャリと言い放たれた言葉に土方は思わず口を閉ざした。
『今日は銀時と近くのカフェでお茶してたんです』
「へ…へぇ、そうか」
『家の掃除を依頼して、そのお礼に』
Aは聞いてもいないことをぺらぺらと語り出した。
少し不自然にも思えるその言動に、土方は気付いていながら指摘出来ない。
「......何処か行くのか?」
『何処かって何処です?』
「何処かは何処かだ」
『行きませんよ。…嗚呼、でも、』
『旅行はしたいかも』と。
ふんわり笑ってそう言った。
.
.
.
ぺら...、
らしくないと、自分でも思う。
土方は色鮮やかな花がいくつも描かれた本の頁を捲りながら小さな溜息を吐き出した。
「シクラメン......、シ......シ...」
さ行を順番に追っていくと目的の花の頁へ辿り着く。
"あの時"見たのは花弁のみだったが、本にはしっかり全貌が描かれていた。
[シクラメン]:[思いやり/憧れ]
土方は指で文字をなぞるように文章を追っていく。
そしてその指がピタリと止まる。
_____[嫉妬]
「それと[はにかみ]、か...」
口に出して本を閉じた。
「はぁ」と溜息を吐くのは本日2度目。
「はにかみ…"歯に噛む"...」
Aの事を思い出して唇を噛んだ。
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アカツキ(プロフ) - 美姫さん» コメント有難うございます。登場キャラの想いが交差してぐちゃぐちゃに絡まるような、そんなお話にしたかったのですが難しかったです... 最後まで読んでくださり有難うございました (2023年2月12日 10時) (レス) id: 359e2a8a6b (このIDを非表示/違反報告)
美姫(プロフ) - 切なくて切なくて、でもとても美しい作品で、涙が止まりませんでした。本当に最高の作品でした。ありがとうございました。 (2023年2月12日 7時) (レス) id: ac5aee6225 (このIDを非表示/違反報告)
アカツキ(プロフ) - おひなさん» 初めまして。コメント有難うございます。土方さん落ちは久々だったのでこれで良いのか迷走しましたが、おひなさんの暖かい言葉に救われました (2023年2月9日 7時) (レス) @page49 id: 359e2a8a6b (このIDを非表示/違反報告)
おひな(プロフ) - 最っ高な作品をありがとうございました!終始涙腺崩壊でした!w (2023年2月9日 2時) (レス) @page49 id: fb3fd917e6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アカツキ | 作成日時:2022年12月27日 23時