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縁日が行われている神社は小さいながらにかなりの賑わいを見せていた。
行き交う人は皆、ぶつからないよう無意識の内に上手く避け歩く。
「A、」
ふと隣を歩く彼女に声を掛け視線を向けたがその姿は見当たらない。
確かに先程までは隣に居たはずなのだがいつの間に何処かに行ってしまったようだ。
きっと隠れん坊が始まった合図だろう。
これでは何方が鬼かわかったものでは無い。
クッ、と声を鳴らして一つ笑いを零した。
「さて、何処に隠れようか」
歩みは止めず人混みに紛れ込んだ。
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『晋助、みっけ、林檎飴買って』
「もう見付かっちまったか」
『ほら、約束だよ、早く屋台に行こう』
何処から現れたのか、彼女は背後から此方を覗き込んだかと思いきや、今度は腕を掴んでグイグイと引っ張る。
そんなに慌てずとも約束は守るし、林檎飴の屋台だって逃げやしない。
「...何で林檎飴なんだ」
『甘くて美味しいでしょ?』
「それなら他にもあるだろ」
『綿飴にあんず飴、後は...飴細工』
"飴"ばっかりじゃねぇかと指摘したが、返事を聞く前に目的の屋台前へと到着した。
ずらりと並ぶ赤い大きな林檎は飴の艶を纏ってキラキラと光っているようだった。
Aはそれらをジッと見つめどれが良いか品定めしている。
「迷ってるのかァ? ...どれも同じだろ」
『違うよ、色や形、後はツルの部分を見て選ぶの』
「早くしろ」
悩んだ末、『これにする』と選んだのは見事なまでに真っ赤に熟した、他のものと比べると少しだけ小ぶりの林檎だった。
懐から財布を取り出し店主に小銭を渡す。
その間に選んだ林檎飴を並ぶ中から取り出した彼女は満足そうな笑みを見せた。
『晋助も食べる?』
「要らねェよ、手前ェで食いな」
飴に被さった袋を丁寧に取り外し、Aの小さな口からピンク色の舌が顔を出す。
その舌は林檎にコーティングされた飴を舐めた。
そんな食べ方では食べ終えるまでに随分時間が掛かりそうだ。
「美味いか」
『うん』
「...そうか」
段々と人が少なくなってきた。
焦れったくなってしまったのか、彼女は林檎飴に齧り付き、ガリッという音が耳に残った。
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アカツキ(プロフ) - 紅さん» コメント有難うございます。そんなに長くならずに完結すると思いますがもう少し付き合いくださいませ (2021年3月29日 18時) (レス) id: 716f2c046c (このIDを非表示/違反報告)
紅(プロフ) - 応援してます!!更新待ってます! (2021年3月29日 13時) (レス) id: b08ab2dbca (このIDを非表示/違反報告)
アカツキ(プロフ) - 東雲 晄さん» 東雲さん、お久しぶりです。前作に続きコメント有難うございます。高杉落ちは毎度暗い感じになりがちですが、雰囲気を楽しんでもらえればと思います...! 見守ってくださると嬉しいです (2021年3月25日 18時) (レス) id: 6533fa6fd3 (このIDを非表示/違反報告)
東雲 晄(プロフ) - お久しぶりです!前作から来ました!晋助夢ありがとうございます!続き楽しみにしてます! (2021年3月25日 17時) (レス) id: 91bd77f472 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アカツキ | 作成日時:2021年3月25日 0時