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「何処に行ってたんスか!? 心配したっス」
帰るなり、Aの姿を確認するとまた子は持っていた書類を盛大に落とし、彼女に抱き着いた。
Aはまた子の頭をそっと撫で『ただいま』と。
それ以上は何も言わなかった。
「お腹空いてるでしょう、後で何かお持ちしますよ」
「嗚呼、頼まァ」
その様子を見ていた武市は準備をするべくその場を後にした。
武市を見送った後、「戻るぞ」と一声掛ければ、また子は涙を堪えながら鼻を啜り、Aからそっと離れた。
彼女はごめんね、とは言わない。
「後で、羊羹も、持っていくっス」
『羊羹があるの?』
また子はニッコリ笑って、散らかった書類を拾い集め去って行った。
『晋助が買ってくれたの?』
「......さぁな」
『また一緒に食べようね』
余程嬉しいのか軽い足取りで先に進むAを今度は逃すまいとその姿を視界に収め続けた。
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.
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部屋に戻ると彼女は放置されたままだった本を拾い上げ軽く埃を払った。
そんな彼女に袖に入れていた写真を渡す。
「忘れもんだ」
『私のじゃない、それは晋助の』
「...御前が持ってろ」
初めは受け取ろうとしなかった1枚の写真をAの細い指が恐る恐る掴んだ。
今にも泣きそうな顔をするもんだから、思わず手を引き胸の中に彼女の体を納めた。
Aは抵抗しない。
それどころか俺の心臓の音を聞こうとでもしているかの様に耳を押し当てている。
「泣くんじゃねぇよ」
『泣いてないよ』
「泣きそうじゃねぇか」
Aはまた俺の胸に耳を押し当てた。
何か聞こえるか、と聞けば『晋助の音が聞こえる』と答えた。
『本当は私も隠れん坊なんて嫌い』
突然そんなことを言い出すもんだから、思わず目を開いた。
それでも彼女は言葉を続ける。
『何処に隠れても絶対に見つけてくれてた先生はもう居ない』
それは他の誰よりもAが一番よく知っていた。
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アカツキ(プロフ) - 紅さん» コメント有難うございます。そんなに長くならずに完結すると思いますがもう少し付き合いくださいませ (2021年3月29日 18時) (レス) id: 716f2c046c (このIDを非表示/違反報告)
紅(プロフ) - 応援してます!!更新待ってます! (2021年3月29日 13時) (レス) id: b08ab2dbca (このIDを非表示/違反報告)
アカツキ(プロフ) - 東雲 晄さん» 東雲さん、お久しぶりです。前作に続きコメント有難うございます。高杉落ちは毎度暗い感じになりがちですが、雰囲気を楽しんでもらえればと思います...! 見守ってくださると嬉しいです (2021年3月25日 18時) (レス) id: 6533fa6fd3 (このIDを非表示/違反報告)
東雲 晄(プロフ) - お久しぶりです!前作から来ました!晋助夢ありがとうございます!続き楽しみにしてます! (2021年3月25日 17時) (レス) id: 91bd77f472 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アカツキ | 作成日時:2021年3月25日 0時