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「隣良いかィ?」
低い声が左側からやってきた。
男にしては派手な着物を着る彼は笠を被っていたがこの大雨に打たれたのかその着物を濡らしている。
『降られちゃいましたね』
「嗚呼...、お陰でびしょびしょだ」
『ふふっ、災難でしたね』
ぽたぽたの笠から水滴が落ちてきて、それが鬱陶しいのか男は笠を取った。
そこで初めて顔が見え、Aは思わず彼の方を見た。
「...気になるかァ?」
『す、すいません… 見過ぎましたね』
「構わねェさ」
『その目はお怪我でも?』
「......昔にな」
包帯で覆われた左目を、男は自身の手で軽く触れ、そう短く答えた。
初対面でそれ以上踏み込むことは出来ないとAは黙る。
ただ、左側に居る彼の、残った右目が此処からではよく見えないのがちょっと惜しくもあった。
『何時止みますかね』
「...さァな、雨は嫌いか?」
『そうですね...、洗濯は乾かないし、着物の裾は汚れるし、あんまり好きじゃないです』
「ククッ」
『けど、......好きなところもありますよ』
雨が嫌いな理由を述べるAに男は思わず喉に掛かった笑いを零すが、続けて雨が好きなところを言おうとする彼女の言葉に耳を傾けた。
『こんな日は相合傘が出来ます』
面白い事を言う女だと、男は思う。
気付けば雨は先程より弱まっていた。
それでもまだまだ強い雨なのだが、男はそれでも構わないとでも言うように一歩踏み出し、屋根のある場所から雨の空の下に出た。
「話し相手になってくれて有難うよ」
「また近々会おうや」
「"土方 A"___」
男は彼女の名前を言い残し、背を向けて行ってしまう。
名前を呼ばれた張本人であるAは驚きのあまり目を見開いて呆然と立ち尽くした。
名前を名乗った覚えはない。
ましてや、外で「土方」の姓を名乗るはずなど有り得ない。
しかし彼は間違いなく「土方A」と女の名を呼んだ。
数分フリーズし終えた後、もう見えなくなった男を思い出し、ゾッと背筋が凍るのを感じた。
『(一体、何者だったの...?)』
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アカツキ(プロフ) - -sara-さん» 此方の作品も読んで下さり、そしてコメントまで有難うございます。夢主ちゃんは皆様のご想像の中で存在して欲しいので詳しく設定等は記載しないのですが、sara様の頭に夢主ちゃんが浮かんでくれて嬉しいです! お褒め頂き光栄です、有難うございます (2021年8月16日 8時) (レス) id: 2cb0f29e5d (このIDを非表示/違反報告)
-sara-(プロフ) - こちらにも、こんばんはm(*_ _)mどうやら、私はアカツキ様の土方さんが大好きな様です(笑)元々好きではありましたが、素敵すぎます!あと、ヒロインちゃんも凄く好きです!なんか、映像として頭に浮かんできちゃいます。最後の「猛獣使い」が個人的に大好きです! (2021年8月16日 3時) (レス) id: 7c2d2afbf6 (このIDを非表示/違反報告)
アカツキ(プロフ) - あめちゃんさん» コメント有難うございます、無事完結する事が出来てホッとしています。久々に土方落ちを書いた気がしますが、なかなかに楽しかったのでまたいつか出したいですね。応援有難うございました (2021年2月16日 16時) (レス) id: adf8f89573 (このIDを非表示/違反報告)
あめちゃん(プロフ) - アカツキさん» 完結おめでとうございます!!土方さんの良さがすっごいよく表現されていて、いつも読む手が止まりませんでした。私の作品も読んでいてくださりありがとうございます!こちらも頑張ります!改めて、完結おめでとうございます。 (2021年2月16日 15時) (レス) id: beda8b3808 (このIDを非表示/違反報告)
アカツキ(プロフ) - 東雲 晄さん» コメント有難うございます、途中文章ミスがあり申し訳ありませんでした... ご指摘有難うございました。またご縁がありましたら作品を読んで頂けると嬉しいです (2021年2月16日 7時) (レス) id: 3bd9d4536b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アカツキ | 作成日時:2021年1月25日 23時