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店から一番近い駅で、ゼミの面々が三々五々帰っていく。
食べる必要がなくなって少しだけ軽くなった心で、改めて先輩たちと話す。
こうして話すと、本当にいい人たちなのだけど。
私が少食なのが悪いのかと、そっとばれないように肩をすくめた。
私と治くんは同じ駅で降りる。
二人で駅のそばの駐輪場で自転車を回収して、二人で歩き始めた。
お酒が入っているので、自転車は押している。
駅から家までは歩いて十五分くらい。
治くんはそこからもう少し先のところだ。
「治くん、ありがとう」
「何が?」
「ごはん」
私が言うと、彼はああ、と納得したように言った。
「別にええよ、俺はいくらでも食えるから」
「そっか、治くんって優しいんだね」
いや、それは結構前から感じていたことだけど。
改めて感じたというか、私に彼の優しさがこうもはっきりと向けられたのは初めてかもしれないと思ったのだ。
「俺はまあ、人には優しくするって決めたからなあ」
「そうなの?」
彼は少しだけ渋い顔をした。
眉間を寄せるその表情は、さっきも見た。片割れのことを話すときのものだ。
それは余程彼の片割れがひどいことを物語っている。
私は会ったことがないから分からないけれど、なんだかおもしろい。
「侑って言うんやけどなあ、あいつはほんとにクソブタで、オブラートなんて言葉知らんし俺のプリンしょっちゅう食うし、あかん」
「あはは」
プリン食べられるんだ、っていう、その図体に似合わない不満がなんだか可愛かった。
彼と片割れは、大学は違うけど同じ家で二人暮らししているらしい。
ここではそこそこに浮いている関西弁を聞いて、てっきり私は一人暮らしなのだと思い込んでいた。
「あいつ家事も適当やしなあ、うん、俺はああはなりたないねん」
「そうなんだね」
容姿は瓜二つだったけど、中身はどうなんだろう。
片割れを思い出して苦笑いをする彼の横顔をぼんやりと見つめた。
そういう理由であるらしい彼の優しさだけど、私はその優しさが素直に素敵だ、と思った。
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雛(プロフ) - ネオンガールさん» ありがとうございます!よかったです!!! (2018年12月24日 18時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - Blueさん» そう言っていただけるとこちらとしても非常に嬉しいです!最後までお付き合いいただきありがとうございました(;;)次回作も鋭意準備中ですので、楽しみにお待ちいただけたらと思います! (2018年12月24日 18時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
ネオンガール(プロフ) - 雛さん» めっちゃキュンキュンしました!!笑 (2018年12月24日 12時) (レス) id: 18c4f82065 (このIDを非表示/違反報告)
Blue - この作品のおかげで治くんがめちゃくちゃ好きになりました。作品の完結おめでとうございます!お疲れ様でした!そして、書いて下さりありがとうございました!次回作も楽しみにしています!! (2018年12月24日 1時) (レス) id: 82a4b13a9b (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - 彩兎さん» コメントと労いのお言葉たいへん嬉しいです。恋愛はもちろんですが、食について掘り下げたお話にしたかったので、少食に共感していただけるとこちらも書いた甲斐があるなと思います。こちらこそ最後までお付き合いいただきありがとうございました! (2018年12月24日 0時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛 | 作者ホームページ:https://twitter.com/pp__synd
作成日時:2018年11月4日 17時