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美味しいものは好きだ。
だから、ちょっと心が痛かったことも、全部吹き飛んでしまった。
牛をかたどった鉄板の上に載った、軽く焼き目のついた拳ほどの大きさのハンバーグ。
写真で見ていた以上にボリュームがある。恐る恐るナイフを差し込めば、まだほんのり赤い中がちらりと顔を覗かせた。上に乗った刻み葱の緑とのコントラストがいかにもである。
この店のハンバーグは、自分で焼き石に乗せて、焼いてから食べるのだ。
「こら行列もできるわなあ、」
そっと小さく切ったハンバーグを焼き石に乗せた治くんが言う。
じゅわあ、と肉の焼ける音と鼻に飛び込む香りに、思わず唾液を飲み込んだ。
私も彼の真似をして、一切れ乗せてみる。
赤い部分をまんべんなく焼き石に押し付けて、茶色く変わっていくのを眺めた。
「いただきます」
小さく呟き、しっかり焼いたハンバーグを口の中へと運ぶ。
じゅわりと広がる肉汁に思わずきゅっと目をつぶった。
塩コショウがほんの少しきいているのがまた肉のうまみを引き立てている。
ハンバーグ特有のふわふわとした食感から広がる肉の香りは、ぶわりと鼻腔まで覆いこんでしまった。
「……めーっちゃ、おいしい」
「な、これほんまにうまいな」
治くんはいつものハイペースでぱくぱくとご飯と肉を交互に食べていく。
あっという間に減っていく鉄板の上を見つめながら、私も少しずつ食べ進めた。
ふと、さすがにハンバーグ一つくらいなら私も食べられるから、別に治くんと来なくても良かったかもなあ、なんて思って。
「治くん」
食べられなかったわけじゃない。まだ入る、けど。
私は一切れだけ、ハンバーグを残した。
「ありがと!」
嬉しそうにそれを箸でつまみじゅうじゅうと焼き上げる彼の、そのきらきらと輝く瞳を見つめる。
年齢不相応なその態度は、彼の食に対する思いがむき出しだった。
たかがハンバーグ一切れを、彼とここに来る建前にしてしまった。
本当なら私でも完食できるそれを食べきれないと嘘ついたのは、そうでもしないと治くんとご飯に行く理由がなくなってしまうから。
何が「この気持ちは押し込めておこう」だ、昔の私よ。
この行為は、誰がどう見たって、恋する乙女じゃないか。
*
もちのにおいに気づくのが治じゃないわけがないという自解釈を貫く方向性でこの作品は進めていくことにしました。
ショーセツバン公式至上主義の方は以後お勧めしません。突然パスかけて申し訳ありませんでした。
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雛(プロフ) - ネオンガールさん» ありがとうございます!よかったです!!! (2018年12月24日 18時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - Blueさん» そう言っていただけるとこちらとしても非常に嬉しいです!最後までお付き合いいただきありがとうございました(;;)次回作も鋭意準備中ですので、楽しみにお待ちいただけたらと思います! (2018年12月24日 18時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
ネオンガール(プロフ) - 雛さん» めっちゃキュンキュンしました!!笑 (2018年12月24日 12時) (レス) id: 18c4f82065 (このIDを非表示/違反報告)
Blue - この作品のおかげで治くんがめちゃくちゃ好きになりました。作品の完結おめでとうございます!お疲れ様でした!そして、書いて下さりありがとうございました!次回作も楽しみにしています!! (2018年12月24日 1時) (レス) id: 82a4b13a9b (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - 彩兎さん» コメントと労いのお言葉たいへん嬉しいです。恋愛はもちろんですが、食について掘り下げたお話にしたかったので、少食に共感していただけるとこちらも書いた甲斐があるなと思います。こちらこそ最後までお付き合いいただきありがとうございました! (2018年12月24日 0時) (レス) id: 7dd974e27d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛 | 作者ホームページ:https://twitter.com/pp__synd
作成日時:2018年11月4日 17時