ド 少 食【宮治】

39 ページ39

・



「……先輩もしかして、宮さんとご飯行ったりしてます？」
「え、うん、ときどき」


勘のいいガキは嫌いだよ、なんてどこかで聞いたセリフが脳裏をよぎる。
治くんのTwitterに上がっている食べ物関連のツイートはほぼ私が撮った写真なのだ。
さらに輝き始める後輩の目に、私はいたたまれなくなってしまった。


「めっちゃ羨ましいなんですかそれー」
「私宮さん推し！」
「わかる、関西弁やばいよね」


いたたまれない。非常にいたたまれない。別に私が治くんに片思いしていることとか、何かが起こって気まずくなっていることとか、そんなこと彼女らが知る由もないし特に言わなくてもいいのだけど、どうにも。


「治くんねー、ミスター取ってくれたら嬉しいけどねえ」


ぼんやりとつぶやきながら、帯を結んでくるくるとリボンの形を整えた。


「はい、終わり！」
「ありがとうございます！」


我ながら綺麗にできた。満足しながら背中を押してやって、次の子の着付けにかかる。
浴衣を伸ばしてくるぶしに丈を合わせて、なんてしていたら、現部長の後輩が私を呼んだ。


「先輩、浴衣余ってるんで、着ませんか」
「……え、わたしが？」


手伝いをする気満々だったとはいえ、適当に裏で提供する食べ物の準備の手伝いしか想定していなかったのだ。

浴衣が余っているなんてそんなことがあるのだろうか。


「下駄もあるんで！」


紺色の浴衣に黄色の帯のが机の上に置かれている。
でも、と口ごもる私に、後輩たちがぞくぞくとメイク道具や髪飾りを差し出してきてしまったから、なんだか着ないといけない雰囲気になってしまった。


「まあいっか、ちょっとくらい羽目外しても」


ちょっとだけおはしょりが短くなるが、私の身長でも浴衣は入るし、自分一人でも着付けができてしまう。
後輩の着付けを一通り済ませた後、私もぱっと浴衣に着替えた。


「……先輩、浴衣似合いますよねー」
「黒髪だからじゃない」


耳の高さで切りそろえたベリーショートのマッシュボブは、お世辞にも浴衣に合う髪形ではない気がする。
大きなひまわりの髪飾りを借りて見たものの、私にひまわりとか似合うだろうかと首をかしげずにはいられなかった。


まあ何はともあれ、治くんとの一件は忘れて楽しもうじゃないか。今日の私は女給さんだ。

40→←38

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す