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三十三 ページ34

――今日は欲しがっていた金魚をやった。

小さな金魚鉢に真っ赤な金魚が三匹、踊り子みたいにひれをはためかせながら悠々と泳いでいる。
その姿を食い入るように見つめるAは、ガラス越しに指で金魚をなぞってその反応を楽しんでいる。

口をパクパクと動かす様子が気に入ったようで、「見てください高杉さん、この子可愛くないですか。」とはしゃいだ。

俺が知っているAはこんな風に笑っている時でさえ、何処か一歩他人と線を引き達観しているような女だった。
きっと俺と出会うまでの記憶や生い立ちが、Aをそうさせていたんだろう。

現に疎ましいそれらが一切抜け落ちたおかげで、屈託のない笑顔を浮かべている。


背負いこんで背負い込んで、いつか張っていた糸がぷつりっと切れるように、壊れてしまうのではないかと時々心配になっていた。
見えない重圧に押しつぶされそうな、そんな危うい雰囲気を常に背負っていたのだ。


だからこそ今回の記憶喪失は、ある意味こいつにとって休暇の様な物だと思う。

こいつは余りにも多くの事を知り過ぎて、もう手の付けようがない所まで来てしまっていたのだから。



俺の事を思い出さなくても、昔の様に”晋助さん”と呼んでくれなくとも。
別にいいんじゃないかと、



そう考え始めている自分が居た。



多分こいつの思想に俺も染まってきているんだろう。
この部屋の中であれば、俺たちはずっとこの関係を続けられる。

本心ではこいつをここに引き留めておくことしか考えていない。
自分の浅はかな思考に自嘲的な笑いがこぼれた。









――今日は高杉さんが三味線を弾いてくれた。

本当は月夜でも眺めながらお酌をして聞きたかったけれど、生憎それは叶いそうもなかった。

余りにも絵になるその姿に思わず見とれてしまう。



伏せられた目には長い睫、女性の様に艶やかな髪、それらと対照的なはっきりと浮き出た鎖骨。
どれもが私を魅了する。
視線を奪い去り、ああ、触れたいと思わせるのだ。

「A。俺ァこの後しばらくここに来れなくなる。」

「そんな。」

「んな顔すんな。すぐに帰って来る。」

「すぐって、どのくらいですか。」

鈴の音を何度奏でれば”すぐ”は過ぎてくれるんでしょうか。
高杉さんは何も言わない。


「....なら高杉さん、ちゃんと帰りを待ってますから。帰ってきたら、ぎゅってしてください。」

三十四→←▽宣伝



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沖神 - そ…そうですかw…ごめんなさいw (2017年8月16日 1時) (レス) id: 3e81e6a0f7 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - 沖神さん» ......む、無料....ですよ! (2017年8月12日 11時) (レス) id: d0946bab96 (このIDを非表示/違反報告)
沖神 - これって有料じゃないです…よ…ね?………… (2017年8月12日 2時) (レス) id: 3e81e6a0f7 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - あかあしえいたくんさん» ご感想お寄せいただきすごくすごくうれしいです...。こちらこそ、ぜひ応援よろしくお願いいたします。コメントありがとうございました。 (2017年7月13日 0時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
あかあしえいたくん(プロフ) - 高杉すごいドキドキします!すごくすごくおもしろいです!これからもがんばってください!ぜひ、応援させてください! (2017年7月10日 14時) (レス) id: 04caca4bb1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/  
作成日時:2017年5月14日 20時

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