37.捕食者のミンチ ページ37
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突然現れた吸血鬼は自身をキム・ソクジンと名乗った。
流石吸血鬼と言わんばかりに顔が整っていて、笑っているけどどこか張り詰めた雰囲気を持っている。
私はその人に半ば脅されながらも家から連れ出され、すぐにタクシーに乗り換えて、一時間半ほどの距離にある空港へと連れてこられた。
「……本当にスイスに?」
「キミは疑り深いね」
「まあ、状況が状況なんで……」
まるで背中に刃物でも突きつけられているかのような緊張感の中で、目の前に聳える空港へと足を踏み入れようとした。
タクシー停留所を越えて横断歩道を渡り、中に入ろうとした瞬間にソクジンと名乗る男目掛けてタクシーが突っ込んでくる。
「――あっ」
私が声を出したのはもはや生理的な、危険の予感に対する防衛本能だったのかもしれない。
一緒でぐしゃりと潰れた吸血鬼の体に、目を見開く。
目の前で人が車に轢かれる瞬間なんて、見慣れないに決まっている。
一瞬だけ「逃げれるかも」という期待があった。地面に散らばる"残骸"と赤い血に、目が釘付けになって、あまりのグロテスクさにえづきそうになりながらも、私はチャンスが来たと思った。
だけど、うごうごと蠢く肉塊が緩やかに集まって、そしてまた人型を形成していく様を目の当たりにして希望が消える。
「いやあ、ごめんね。最近の機械には弱くて」
「……これが、不死ってやつですか」
「びっくりしたでしょ」
びっくりなんていうレベルじゃない。
極端に死ににくいとは聞かされていたけれど、ほとんど体の中心部分がミンチになっても蘇るなんて、逆にどうやったら死ぬんだろう。
「痛みとかないんですか?」
「痛いに決まってるじゃないか!」
本当に惚けた人だと思う。テヒョン然り、吸血鬼っていうのは脳みそのネジがどっかにいってるんじゃないだろうか。
「とりあえず、飛行機乗るから」
「パスポートないですけど」
「あはは、面白いこと言うね! キミにはもう国籍どころか人権もないのに!」
「……はは」
あんまり笑えない人外ジョークを聞きながら、私は促されるままに搭乗口から飛行機へと乗り込んだ。
多分アレ、プライベートジェットってやつ。
「私、どうなるんですか?」
「まあ、想像している通りかな」
家畜ルートだ。
私はゾッとした気持ちのまま、飛行機の座席へと着いた。
逃げなきゃ、と思うけど、怖くて出来なかった。この人は、怖い。
「とりあえずちょっと飲ませて」
そう言って首筋に歯を立てられた。
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sai(プロフ) - のんさん» はじめまして、コメント&読了ありがとうございますー! 番外編もちょいちょい書きますので、また読んでください´`* (2019年9月14日 23時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 初めまして。楽しく読ませていただきました。完結してしまって…しばらく吸血鬼ロスでした。番外編嬉しいです!楽しみにしています! (2019年9月14日 19時) (レス) id: 94dc845851 (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - チョコさん» 完結までお付き合いいただいてありがとうございまーす!その後の進展(?)した二人も書きますね〜!読んでくださってありがとうございました! (2019年9月10日 12時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - AULA−輝きさん» ストーリーがダラダラしそうで大分(他メンのエピソードとか)色々削ったので、ぼちぼち番外編てやりたいですね〜!ジミンちゃんの今的なやつもやってみようと思います^^ (2019年9月10日 12時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
チョコ(プロフ) - わぁ〜!完結しましたね!今回は推しということもあり楽しませていただきました!続編、見たいです!!基本的には作者さんにお任せですがやっぱりデートシーンみたいなのはほしいです笑笑 (2019年9月10日 1時) (レス) id: 58e918a46e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:sai | 作者ホームページ:https://twitter.com/xxx___sai/
作成日時:2019年8月29日 11時