06.初めての親切 ページ6
.
｢役場はあっちです｣
そう言って指を指された方向もまた山であった。
私は思わず苦笑を浮かべた。
｢……案内しますか？｣
｢お、お願いします｣
まだここは平野だからいいけど、山で遭難すればいよいよ命の危機だと思う。
そんな私の不安を嗅ぎ取ってくれたのか、男子はドロドロの学ランもそのままに自転車に手を掛けた。
｢あ、でも制服大丈夫ですか？ というか、急いでたんじゃ……｣
｢いや、もう大丈夫です。濡れたし。雨で流します｣
｢え？｣
｢雨降ってたから……急げばそんなに濡れないかなって思ってただけなんで｣
いやいや、自転車乗ってる時から相当ぐちゃぐちゃだったけど。男子ってよく分からないな。
｢そっちこそ大丈夫ですか？ タオルとか取ってきますか？｣
｢あ〜……うん、私もいいや。もう大分ダメだし。というか早く用事済ませないと｣
この一連の流れで私もすっかり濡れ鼠となっていた。口にこそしないけどパンツまでぐちゃぐちゃだった。
スマホとかは合皮のバックに入れてたから無事だとは思うけど。
｢村役場って早く閉まるんでしょ？｣
｢これから行っても昼休憩かも。三時には閉まるし｣
｢難易度高すぎ｣
やる気がないのか仕事がないのかは分からないけど、お役所仕事とはよく言ったものだと思う。
・
道案内を買って出てくれた男子はジョングクくんというらしい。
土砂降りの中ぐちゃぐちゃの私たちはとりあえず自己紹介のようなものから始めた。天気の話をしようにも、私達は散々濡れた後だったし。
｢中一？｣
｢そうです。Aさんは？｣
｢私は中三。変な時に転校でしょ？｣
｢うーん、そもそも転校生が珍しいんで｣
村から出てく人は多いけど。とジョングクくんは比較的訛りの少ない言葉でぽつぽつと返してくれる。
そういやユンギさんは訛りなんかなかったな。所謂外の人ってやつなんだろうか。
｢いつから転校なんですか？｣
｢なんか、それをこれから決めに行くみたい｣
｢へえ｣
ジョングクくんも決してノリがいい方ではなかったけれど、久しぶりにする人との会話って感じで正直感動した。
そうだよね、普通はそういう質問とか出てくるよね……と祖父や大叔母の姿を思い浮かべて遠い目をする。
そんな与太話をしながら、私達は山道へと入った。どうやらこっちはある程度舗装もされているらしく、アスファルトを踏みしめる。
山間の拓けた場所にやや近代に近づいたコンクリの建物が見えてきた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 275人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「BTS」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
sai(プロフ) - fanさん» コメントありがとうございます 文脈とかはあんまり考えてないんですけど、読みやすかったら何よりです^^* 楽しんでください〜 (2020年2月29日 13時) (
レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
fan(プロフ) - コメント失礼します。まだ数話しか読んでいないのですがとても文脈がしっかりしていて読みやすく楽しい作品だなと思いました。 (2020年2月27日 16時) (レス) id: b1b69e3863 (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - カナタさん» 番シリーズから！ありがとうございます！ 今回も全員総出演で不穏面白く書きたいと思いますー 完結まで楽しんでください〜 (2020年2月14日 21時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
カナタ(プロフ) - はじめましてです^^ 番シリーズから飛ばせていただきました！題名から田舎でのんびり系かと思いきやファンタジーな内容にハラハラしながら読ませていただきました！ま未だ出ていないメンバーもいまし今後も更新楽しみにお待ちしてます！ (2020年2月14日 2時) (レス) id: 684671b8cd (このIDを非表示/違反報告)
sai(プロフ) - はじめましてさん» こちらこそありがとうございます〜 ほんと好きなように書いてるんで、好みに合って嬉しいです^^ これからも好きに書くので、気が向いたら読んでやってください！ (2020年2月11日 13時) (レス) id: 00e0a369b0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：sai
| 作者ホームページ：https://twitter.com/xxx___sai/
作成日時：2020年2月5日 13時
