無口な彼女_9 [hiromitsu.k]

Chapter423 ページ42

エレベーターのドアが開いて
足を踏み出すと









ふわっと鼻先に届いた
このホールの匂いですら
すでに懐かしい








隣の部屋のドアに一度だけ
向けた視線はすぐに戻して

自分の部屋の玄関前に立ち
バックから鍵を取り出すと

一度だけ大きく息を吐いてから
ドアを開けた









センサーライトで
リビングまでの道のりは
一瞬で明るく照らされた









靴を脱ぎ
ひんやりとした廊下を進み
リビングに通じるドアを開け

ダイニングテーブルに鍵を置くと

呼び寄せられるように
バルコニーが見渡せる窓の前に立った






目の前にはマルによって
いつもは開けっ放しだった
レースカーテンが閉まっている

そっと覗き込むように
少しだけカーテンを開け
久しぶりの景色と対面

さすがにバルコニーの掃除までは
されてるはずもなく

バルコニーの隅には
あの日色とりどりに輝いた花火達が
バケツの中に置かれたままだった








感情を力いっぱい無にして
バルコニーに出て
バケツを手に取ると
すぐ部屋に戻ってキッチンへと向かう









適当な袋を出し花火を入れ
バケツの中身を
シンクに一気に流すと
今度は何とも言えない臭いが
私の鼻を襲った

そのままバケツを洗い
次にシンクを洗い
そのまま水回りを磨き始め
気づけば取り憑かれるように
キッチンの掃除を始める








一通り作業を終えて
ピカピカになったキッチンを見て
『よし』と小さな声で呟いて









そのままキッチンから
見渡した部屋









長い事空けてはいたけれど
マルが定期的に来てくれてたせいか
掃除が必要そうな箇所は
パッと見は見当たらない









けれど、ふと覚えた違和感








・・・あれ？









気になったのは









ガジュマルの木









・・・色おかしい？









毎日見てたからこそ気付ける事で
マルにはわからなくて当然くらいの変化だった









あの日宏光くんに
キャスターに乗せてもらって
動かそうと思ったまま
家を出てしまったから・・・








ガジュマルに近づき
植木鉢を見ると
ガジュマルの葉が２、３枚落ちていた









ダメになっちゃうかもと感じた途端
あれだけ邪魔だと思っていたガジュマルに
急に湧き出す愛着心と罪悪感









とりあえず
日の当たるところに移動させなきゃ・・・









キャスターの上にのってるおかげで
簡単に植木鉢は動いた









・・・。

Chapter424→←Chapter422

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す