月光 ページ45
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綺麗な夜だった。
都会に掻き消されたはずの星ぼしが煌々と光を宿し、街の喧騒を忘れさせるくらいの静寂が世界を支配している。
部屋を埋め尽くすのは、気が狂いそうなほどの白。
月明かりが充満したその中で、眠り続けるAは酷く美しかった。
"陶器のような白い肌"とはよくいったもので、本当に作りものであるかと錯覚する。
冷えきった体温に触れれば、その脆い存在に胸をかき乱された。
ひやりとした手にそっと指を絡ませても、反応はない。
その伏せられた長い睫毛が、
固く結ばれた唇が、
どうしようもない感情を掻き立てる。
「...........A。」
言いたいことは山ほどあった。
けどもう、
御託を並べるのは疲れただろう。
縋り付くみたいに、その白い手を握りしめて。
「ーーーーーーもう、どこにもいくな。」
....ずっと、俺のそばに。
地に散らばった感情をかき集めて、
なんとか声を絞り出す。
部屋にはふたりきり。
後悔はしない。
俺はきっと、人形のようなAに縛られ続けーーーーー愛し続けてしまう。
なら、
お前が望む結末で幕引きとしよう。
一呼吸おいて、覚悟を決めて。借り物の刀でAを繋ぐ機器を破壊した。
飛び散る火花と衝撃音。
何本もの同線を引き裂き、Aの体を持ち上げる。
....警報のサイレンが鳴り響く中で、1度
触れるだけのキスをした。
いつか、思い出して泣いてしまわないように
その唇の温もりを求めてしまわないように。
『銀ちゃん。』
機械から解き放たれたAは、そっと目を開き、そう口を元を形作る。
もう声も出なくなった。
なら、言葉などいらないだろう。
「A。」
好きだ、愛してる。
そんな月並みな台詞を吐いて、微笑めば、Aも何も言わず、笑う。
たった今があれば、この先の未来もいらない。
月光に照らされながら、部屋の窓を開け放つ。
ーーーーどうか、幸せに。
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年6月10日 21時