予感 ページ44
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俺は多分、こうなる事に薄々感づいていたのかもしれない。
パチンコで負けて競馬で負けて。
結局すっからかんになった財布だけ引っ提げながら、夕暮れの大通りを歩いていた。
――式を挙げる前の話である。
板チョコの一枚分も銀の玉を稼げなかった俺は、完全に手ぶら状態。
家に帰ってドラマの再放送でも一気みすっか、と人混みの中で欠伸を零したとき。
...前方に覚えのある後ろ姿が見えた。
俺が何日も頭を悩ませて選んだ着物を纏った、黒髪。
いつも簪屋じゃあ、見かければ声をかける。
「別れたけど友達でいましょうね」とか到底無理な綺麗事を言うつもりは無いが、俺が声をかける度に....また昔のような顔をするAをただ純粋に見たいと思った。
けれどどうしてか。道端でたまたま見かけたりなんかすると、躊躇してしまう 。
結局気付かないふりをして、一定の間隔を保ちながら同じ通りを歩いた。
そろそろ万事屋の看板が見え始めた頃。
Aが急にふらつき、近くの電柱に手をついた。
そのまま足に力が入らないかのようにずるずると柱にもたれかかりながらしゃがみこむ。
「っおいA!!」
ずっと後ろにいたことがバレようが、もうどうだっていい。
Aの元に駆け寄って、苦しそうに上下する肩にそっと手を添える。
「銀ちゃん...なんでここに。」
焦点の合わない目で咳き込みながら、顔を上げる。
明らかに貧血とかいう程度じゃなかった。
......そのときだ。
初めてAの言動を疑ったのは。
俺は出会った時から、こいつの些細な嘘でさえ見抜くのが下手だった。
『大丈夫だよ』
Aがそういえば、なんの抵抗もなしに受け入れてしまう。
巧みに言葉を操って、俺を安心させるのだ。
万事屋まで運ぼうとする俺の手を、慌てて払い除けたのが紛れもない証拠だろう。
まるでついていた嘘が露見するのを恐れるように、懸命に平然を装おうとする。
そうだ、
こいつはなんでも背負い込んで押し潰されるような、不器用なやつだった。
▽▲
立ち尽くす俺を置いて、土方の野郎はこちらに背を向けた。
その黒い隊服は、明かりの少ない廊下に溶け込んでしまいそうだ。
「.........どこ行くんだよ。」
美味しいところだけかっさらって。
ああ、ほんとこいつだけは気に食わねえ。
「決まってんだろ?....あいつらぶっ殺しにいくんだよ。」
瞳孔が開き血走った目で、やつはそう吐き捨てた。
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年6月10日 21時