憧憬 ページ5
それから土方さんとはたまに飲みに行く位の仲になった。
普段からお酒もあまり口にしないたちだったようだし、正直な所私に合わせてくれていたのかもしれない。
「お久しぶりです土方さん。」
「よお。奇遇だな。」
始まりは見廻り中の土方さんを見つけた帰り道、気まぐれで声をかけてみた事。
江戸には知り合いが極端に少ない私にとっては数少ない知り合いだ。
私よりも格段にこの街に詳しい土方さんとは、一向に私は尽きなかった。
「良かったらこの後一杯どうですか。」
「お前酒なんか飲むのか。」
そうは見えねぇがな。と土方さんに言われた時、始めてそういえば酒を飲み始めたのは銀ちゃんの影響かもしれないと思った。
彼の良く飲んでいる熱燗のの中身を私も味わってみたい。
そう思って手を出したのがつい最近の話なのだ。
「まあ最近ちょっと、って感じですかね。」
「そうか。だが悪ぃな、今は生憎職務中だ。またの機会に頼む。」
うーん振られてしまった。
他に誘う人なんていない私は多少のショックを受けていたのだけれど、後日本当に土方さんは「こないだ言ってただろ飲みに行きたいって、今日どうだ。」と街中で声をかけてくれたのだ。
大抵の"またの機会"とは永遠にやってこない断り文句だと思っていたけれど、どうやら彼にとっては違うらしかった。
何処にでもあるような酒屋で、味の濃いおつまみを頼んで。どんちゃん騒ぎの中他愛も無い話を積み重ねた。
普段から銀ちゃん以外の知り合いがいない事を気に掛けていてくれたのかもしれない。
夕暮れ時に男女が会いに行くだなんていかがわしい響きだけれど、お互い下心は感じられない関係だった。
もしかしたら私が女だからそんな事が言えるのかもしれないけれど。
銀ちゃんへの私の思いを知ったうえで手を出すなんてまね、絶対にするはずもない。
私が安心しきっていた理由はもう一つある。
それは土方さんが酔った勢いで零した、ある惚れた女の話。
「俺は後悔しちゃいねえよ。あれが最善だったと、今でも言える。」
彼が女の告白から逃げたこと、女の結婚相手が攘夷浪士と黒いつながりを持っていたこと。
そして女が病で倒れ息を引き取った時も、その隣に居てはやれなかったこと。
こんな話を酒の力で聞いてしまって良いものか迷いもしたけれど、その壮大な物語に私自身聞き入ってしまっていた。
そして、何処か憧れてを持ったのだ。
私もこんな一途に愛し、自己を犠牲にしてでも愛されてみたいと。
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年6月10日 21時