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懇願 ページ38

「....その、あいつの名を口にした奴ってのは誰なんだ?」

じわりと滲んだ疑念を問う。
嫌な予感がした。

「分らないんです。いきなり訪ねてきた方が、彼女の話を銀さんにしていました。詳しくは聞こえませんでしたが...。」

「そりゃどんな奴だ。」

「男性の方で、身長が高くて――天人でした。」

「!?」

ばらばらだったピースが脳内でつながる音がする。
何で万事屋にそいつが来たのかはわからない。ただ、行かなければいけないと思った。
救いを乞うあいつに、手を差し伸べなければいけないと。

Aが危機的状況にあるという事だけは明白だった。

「ッ!まさかっ!!」

舌打ちをしながら携帯を取出し、ひたすらAの番号にかけ続ける。
いくら通話を試みても返って来るのは無機質な電子音のみ。
焦燥感に駆られ、気づけば居場所もわからないあいつの所に走り出していた。
背後から動揺した女が何か言っていたが聞き取る余裕は残っていない。振り返りもせず、ひたすらに無事を祈る。

いつの間にか小ぶりの雨が降り始めていて、顔に掛かる水滴が鬱陶しかった。
徐々に勢いを増していく。

あいつを受け入れた日も、確か、こんな雨の日だった。

「何処にいやがんだあいつ!」

やり場のない苛立ちが募る。
肝心な時、何もしてやれない自分が腹立たしかった。

またしても朽ちていく姿ただ見ているなんて御免だ。

――――すると、急に鳴り響く着信音。

タイミングを見計らったように携帯には『着信:A』の文字が浮かび上がった。


「おいっA!今何処に居る!!」

「土方さんっ!!!」

受話器越しにあいつの荒息遣いが伝わってくる。
交じる、雑音。まるで何かに追われているかのように、必死に吐き出される声。
背後では野太い男の掛け声や物騒な物音がした。

「土方さん、お願いがあるんです!」

「いいから今どこにッ」

「最後の最後まで汚れ役を押し付けて、すみません。これだけ、これだけは!どうか聞いてください!」

最後。
たった二文字が反芻する。
嫌な、響きだ。


「形として有り続けるが為に、あの人を縛る存在には絶対になりたくない!!たとえ銀ちゃんがそれを望んでも、私が在りつづけることに意味はないんです!だからっ!だから...土方さん!!」


全ての力を振り絞るようにして、叫ぶ。


泣きだしたAは、掠れた声で、






「どうか....どうか、私の事を殺してください。」






それが、最後のあいつの声だった。
.

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設定タグ:銀魂 , 土方十四郎 , 坂田銀時   
作品ジャンル:アニメ
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/  
作成日時:2017年6月10日 21時

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