類似 ページ36
万事屋の式から三日。
1人でぽつりと会場に立ち、新郎新婦をみつめるあいつの顔が忘れられなかった。
うれし涙を流して鼻をすすっている奴なんて、周囲にごまんといたんだ。
あいつだって紛れて泣きじゃくればいいものを。
必死に耐える姿がそこにはあった。
意地を張るあいつの背は、いつもより弱々しく見える。
あの肩を引き寄せて抱きしめてやりたいと思った。肯定の言葉を与え、思う存分泣きじゃくる場所を作ってやりたかった。
欲じょう?同情?劣じょう?
わからない。
寂しさを紛らわすための相手でしかない俺が、あの柔い肌に触れることは、どうしてもできなかった。
あくまで新郎の友人一同として、背筋をぴんと伸ばした野郎の式に拍手を送る。
心ここに在らずの状態の俺を、総悟は怪訝そうな表情で見つめてきた。
あいつと同じように、会場内に充満した幸福に弾かれてしまっている俺は、少し異質だったのかもしれない。
そんな想いを引きずって、この数日を過ごした。
そろそろあいつも江戸をたつ頃だろう。
徒歩で見廻りをしながら煙草を吹かす。
人通りも少なくなってきた時間帯。忙しなく人の行きかう橋の上で、一人の女が空を仰いでいた。
ただ何をするでもなく雲行きの怪しくなってきた空を眺めている。
今にも飛び降りてしまいそうな―――雨に濡れていたあいつを連想されるような空気を纏う女が、俺の危機感を煽り立てた。
それにあの髪色には、見覚えがある。
「おい、ンなとこで何やってんだ。」
「.....あなたは。」
振り返る女は、凛とした声を発する。
―――あの、白無垢の彼女だった。
「あの人のお友達ですよね。確か、式にもいらして下さって。」
「ああ。腐れ縁だがな。」
礼儀正しく一歩引いたところを歩く様な女、といった印象だった。
育ちがいいと聞く彼女は花にでも例えたくなるような笑みを浮かべる。あいつには気の毒がだ、正直な所、俺でさえかなわねぇと感じた。
「新婚とは思えねぇ面だな。旦那はどうした。」
「お見苦しい所をお見せして、申し訳ないです。あの人、銀さんは...彼女の所に行ってしまいました。」
あいつと目の前の女は、よく似た顔をする。
本心を押し殺して、体裁の為でもプライドの為でもなく、ただ一心にあの野郎の事を思って笑顔を作り上げるような。そんな胸糞悪い、綺麗な顔。
女にんな面させ続ける万事屋の野郎は、間違いなく外道だ。
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年6月10日 21時