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友人 ページ4

土方さんは二度も私を助けてくれた、恩人である。

一度目は私が江戸に出て来たばかりで、憔悴しきったていた頃だった。
銀ちゃんに出会う少し前である。

日が沈んだ後の街の恐ろしさを知らなかった私は無防備にも裏路地をふらふらと彷徨っていた。
勿論ゴロツキが見逃すはずもなく、数人の男に目を付けられもみあいになる。
明白な力の差を前に覚悟を決めた時、背後から聞こえたのはあの低音だった。

「おいてめぇらそこで何してやがる。」

刺すような目つきに、咥え煙草。とても絵になるその風貌に息をのむ。
その時の土方さんは非番だったのか、私服の黒い着物を着ていた。
彼が警察であり職務の一環として私を助けたことを知ったのは、もう少し先の話である。

「お前こんなとこふらついてっと今度はただじゃすまねぇぞ、わかってんのか。」

「......あ、はい。あのすみませんでした。」

それだけ言って逃げるようにその場を去ってしまったわ私は、後でお礼を言えなかったことを悔やみ続けることになる。
背を向ける私に「おいっちょっと待て!」と土方さんが叫んでいるのは聞こえていたけれど、冷静に何かを考える余裕がなかった。


結局土方さんにきちんとしたお礼が言えたのは、その後銀ちゃんと行動を共にし、真選組と顔を合わせた時である。
きちんと隊服を着こなし胸を張る土方さんは、初対面の時とはまた違った雰囲気を纏っていた。

「あっ。」
「お前あの時の」

驚愕のあまり固まる私を見て「何お前ら知り合いなの?」と双方へ交互に視線を送る銀ちゃんは、なんだか面白くなさそうな顔をしていた気がする。

「その節は突然逃げてしまってすみません。」
「いや気にするな。俺も仕事だしな。」
「でも制服じゃなかったですよね。」
「こまけぇ事はいいんだよ。職務関係なくあんな場面見過ごすほど薄情じゃねぇってこった。」

深々と頭を下げ、今度お礼がしたいと言うも、速攻却下を食らう。
結局最後の最後まで土方さんにはお世話になりっぱなしで、何かを返せたためしがなかった。
恐らく彼にとって人を助けることは当然の行いの一部であって、礼を改まってされるほどのものではないのかもしれない。

「あいつに礼とかなんとか言ってたけどよ、お前なんかあったの?」

後で心配して銀ちゃんが訊ねて来たけれど、「なんでもない。」と誤魔化した。銀ちゃんに心配を掛ける位なら、忘れてしまった方がいい。
そうやってあの時も、銀ちゃんには本当の事を言わなかった気がする。

憧憬→←幻想



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設定タグ:銀魂 , 土方十四郎 , 坂田銀時   
作品ジャンル:アニメ
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/  
作成日時:2017年6月10日 21時

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