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幻想 ページ3

もう何時だったか忘れてしまうくらい、昔の話。

銀ちゃんは万事屋を始めたばかりで、私は彼に拾われた。
ぼろ雑巾みたいに全てを失って倒れ込んでいた私を救ってくれたのは、まぎれもない、彼。

ただ目の前に現れた彼に縋りついて、金など盛っていない私は後払いだといって万事屋に依頼した。

私を助けてください、と。

それからは早かった。
手元に何も残っていなかった私が、縋りついた先の銀ちゃんに惹かれるのは自然な話だったし、仕事のためとはいっても私たちが共に過ごした時間は余りに長かったのだ。
普段は不器用なくせに、こういう真剣な時だけ女を口説くのが恐ろしく上手い。

心を突くような台詞を照れもせずに言ってのけるのだから。
かなう筈なんてなかった。



「A。俺ならお前を一人にしねぇ。一生守ってやれる。......だからずっと、そばにいてくれ。」



銀ちゃんは強く私を抱きしめて、そういってくれた。
いつも甘いものを食べてごろごろしているだけの彼だけど、その体は筋肉質でやはり男の人の形をしている。安堵に浸りながら、なんて狡い人だろうと思った。

銀ちゃんの背中に手をまわして、私も抱きしめ返す。
鼻をくすぐるその銀髪からは愛おしいにおいがした。
言葉がつっかえてしまって上手く云えそうになかったから、ただただ沈黙と抱擁で伝えようとしたのを覚えている。
人は幸福感過剰摂取で死ぬことがあるんだとあの時言われたら、私はきっと本気で信じていたかもしれない。
今までの痛烈な過去は、この瞬間を味わうために在ったのだと。

銀ちゃんは人生そのものを肯定してくれた。

彼が一人で住むには広すぎる二階の部屋で一緒に暮らして、こんな風にお登勢さんたちに報告をしに来て、恥ずかしそうに微笑する銀ちゃんの横顔を見たいと思った。
家族を知らないのだと打ち明けてくれた彼と家庭を築いて、温かみを教えるのは私の役目だと思った。
そうやって一緒に時を刻んでいくのだと、信じて疑わなかったのだ。

けれど最期まで添い遂げるには、彼は余りにも真っ直ぐで誠実すぎる男だった。
口では何といおうと、一生に二人の女を愛すなんて器用な真似できないんだ。
きっと銀ちゃんがもっといい加減で浮気も平気で出来て、簡単に私みたいな女を見捨ててくれる最低なクズ野郎だったなら。

今隣に立っているのは私だったろうな。

友人→←祝福



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設定タグ:銀魂 , 土方十四郎 , 坂田銀時   
作品ジャンル:アニメ
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/  
作成日時:2017年6月10日 21時

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