再度 ページ20
思わず足を止めれば、背後からそっと包み込むみたいに銀ちゃんの腕が回される。
私の持っていた箱から簪を取り出して、泣き出しそうになりながら振り返る私に差し出した。
「....お前、こんなん好きなのな。ずっと一緒に居て、んなことの一つも知らなかったよ。」
お客様。店員さん。
その境界線を一気に越えて、心の奥深くまで入り込んでくる台詞。
銀ちゃんは不思議な人だ。
多くの人を惹きつける光を背負い、まさに英雄と称するに相応しい熱量を持っていて。
今もほら。言葉の一つ一つが魔法の様に私を蝕んでいくの。
「俺ァお前に謝らなきゃいけねぇことが山ほどある。言いたいことも、これからやりてぇ事もいくらだってあんだよ。...たった一度の浮気ぐれぇで捨てられるほど、お前はもう、俺の中で軽い存在じゃねえんだ。」
「...っ!ぎんちゃんが謝る事なんて、一つも、」
「あんだろ!あの日乱暴にしたことも、お前が他の奴に頼っちまうほど不甲斐なかったことも。」
なんで、なんで銀ちゃんが謝る必要があるというのだろう。
全て私のエゴが招いた筋書きだ。
このまま順調に彼を捨てて、幸せな彼を見送って、一人で死ぬんだ。
そういう結末を絶対に向かえなくちゃいけないのに。
貴方の隣にいることはもうできないのに。
「A......受け取ってくれ。頼む。」
懇願するように、金の簪が淡い光を放っていた。
今はもう結婚指輪が主流になってしまったけれど、ほんの少し前は、求婚に簪が用いられていたことを銀ちゃんは知っているんだろうか。
花びらの一枚一枚がとても眩しい。
映り込む私の顔は酷く醜く見えた。
目の前に煌めいているそれは、私が渇望しているものだ。
銀ちゃんが与えてくれる最後のやり直す機会であり、私の幸せな最期。
―――銀ちゃん、こんな最低な女を追いかけてきてくれて、本当に、ほんとうにうれしかった。
愛する人にこれほど求められる事以上の幸せなんて、きっと存在しないんだろう。
もうこれで覚悟は決まった。
きっとこの選択を、私は一生後悔しない。
「、銀ちゃん。」
あなたが、どうしようもなく愛おしい。
「私たちまだ別れてはいなかったよね。」
そっと銀ちゃんを抱きしめる。
たった十数秒の抱擁。
それだけで十分だった。
「......ちゃんとお別れしよう。恋人として会うのは、これで最後。」
金の簪をはねのけて、ただのそれだけ告げる。
「幸せになってね。」
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年6月10日 21時