邂逅 ページ19
長い間求めていた姿が、声が、吐息がそこにあった。
懐かしい銀色に手を伸ばして私だけのものにしてしまいたいのに。
そんな焦燥を悟られないように平常心を保つ。
否、そう見えるように装った。
「お相手の女性に一番似合う、とお客様が思われたものを手に取ればよろしいんですよ。難しい事を考える必要はありません。」
「つってもな。何が好きかとか、正直分かんねえから。」
「なら季節に合わせたものをお選びになるのはどうでしょう。風情があって、なかなか粋ですよ。」
あくまで彼は、お客様。
そして私は、店員さん。
この肩書越しに会話をする私たちは、酷く臆病だった。
馬鹿みたいな茶番。
それでも、また前みたいに言葉を交わせることが、こんなにも.....
これなんてどうでしょう。
手に取ったのは最近店に並んだばかりの新作。
若い女の中でもなかなかに好評で、こんなに煌めくものを嫌がる女性なんていない。
銀ちゃんが簪を贈る相手だって、きっと。
いくつかお勧めを紹介するけれど、品定めをする銀ちゃんはいまいちぴんとこないようで、難しい顔をしている。
その横顔を眺めていると、腹の底から汚い感情が湧き上がってきた。
本心と一緒にしまい込んだはずの傷心が、嫉妬と混ざって、もう手の付けようがない。
「おすすめとかじゃなくてさ、店員さんの好きな奴教えてくんね?」
「...私、ですか?」
「そ。あんたなら、何に選ぶのかなーと思って。」
興味本位、だろうか。
上がる心拍数をねじ伏せるように、大きく息を吸って、一番のお気に入りを指さした。
女の髪を彩るためだけに作られた、金の花が咲き誇る簪。
金一色に統一されているが故に、黒髪にはよく映えるだろう。
「これ、とかですね。お相手は黒髪ですか?」
「ああ。....とびっきり綺麗なやつだ。」
「ならきっとよくお似合いになりますよ。」
お気に召したご様子のお客様は、じゃあこれで、と私の目を見て言った。
一連の会話で一度も合致しなかった視線が。ぱちりっ。
予想していた気だるげな半目じゃない、真剣そのものの瞳に吸い込まれてしまいそうだ。
「こちら包装致しますので、少々お待ちください。」
会計の後、この場を離れる理由を得た。
やっと時がかき消してくれたいくつもの想いが溢れて、彼を傷つけてしまうような気がしてならなかったのだ。
店の奥に逃げ込んでしまいくてそう告げると、銀ちゃんがふと、
「A。」
私の名を呼んだ。
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年6月10日 21時