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放棄 ページ18

私の視界から銀ちゃんが消えても、驚くほど世界は変わらずそこにあった。

人間はつくづく都合よく作られた生き物だと思う。
一定量を超える悲劇を摂取すると、キャパオーバーをおこして現実を直視しなくなる。

次の日も目覚ましは朝の六時ちょうどになったし、果物で朝食を済ませた私は藤色の着物に着替えて仕事へ向かった。
気味が悪いくらいに冴えた頭と、冷静に現状を分析するその中身。
唯一違う所といえばコーヒーを沸かし忘れてしまったことぐらいだ。

銀ちゃんが家を訪れたあの朝。
思う存分泣きじゃくった私はもう腫れた目を冷やす気にもならなかった。

よくありがちな”涙が枯れる”という表現はあながち間違っていない。
泣き続けた果てには、何で自分が泣いているのかすら忘れることができるからだ。
それと同時に、泣いたところで特に得られるものは無いのだと気づけるほど、冷静な思考を取り戻せる。

考えることを忘れた私には、傷心旅行も断髪も必要なかった。


「お嬢ちゃん、今日もきれいだね。」
「いえいえそんな。奥さんの方がよっぽどお綺麗ですよ。きっと簪がよく映えます。」


淡々と日々を迎え、笑う。


「これ頂戴な。」
「はいっただ今!」


生計を立てるために始めた簪屋の仕事は、気づけば私の居場所になっていた。


「本当にいつも元気なあんた見てると、こっちまで元気んなっちまうねぇ。」
「ありがとうございます。」


本心を言えばこのまま逃げ出してしまいたかったけれど、それでは銀ちゃんに不審がられてしまうから。
ただ、あの痛みが過去になるのを待つ。


「...おはようございます、今日もお仕事ご苦労様です。」
「ああ。お前も頑張れよ。」


前を通りすがる土方さんも、いつの間にか罪悪感に満ち満ちた顔をしなくなった。


「あの、すみません。道をお尋ねしたいのですが...。」
「はい。どちらまででしょう?」
「万事屋というお店がこのあたりにあると聞きまして。そちらまでお願いできますか。」


そういえば、あの綺麗な女性が私に道を尋ねてきたのもこの頃だった。


「今晩は。もう店じまいですけれど、何かお探しですか。」
「.........女に、簪を贈りてぇんだがどうすりゃいいかわかんなくてな。」


あてつけか、それとも不本意であったのかはわからないけれど。
銀髪の侍が店先でショーウィンドウを眺めていたのも、その人に私が声を掛けたのも、あれからいくつかの季節が巡った時だった。


ーー
当初の予定より長引きそうです。

邂逅→←破綻



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設定タグ:銀魂 , 土方十四郎 , 坂田銀時   
作品ジャンル:アニメ
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/  
作成日時:2017年6月10日 21時

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