傾慕 ページ7
『おい、てめぇの家近くの赤い暖簾の店だ、今すぐ来い。』
『なーんでAの携帯に掛けてお前の声なんざきかなきゃいけねぇんだよ。ふざけんな。』
『るせぇな。いいから早く来い。』
『言われなくてももう来てる。後ろだ後ろ。』
明らかに電話を聞いて家を出たとは思えない速さで、声の主が店に入ってきた。人の神経を逆なでするようなふざけた顔と、目立つ銀髪。店の親父の反応からしてこいつもここの常連らしかった。
「つーかいいわけ?鬼の副長さんがこんな時間まで女と飲み歩いてて。それに人の女に手ぇ出すとか、人としどうよ?」
「人の女だぁ?まだ付き合ってすらいないんだろ。」
「Aは俺が拾ったの。だから俺のもん。」
Aがコイツの事を好いているのはわかっていたが、今の発言はそれをわかったうえでのものなんだろう。
こいつらが出会った経緯も今どんな生活を送っているのかも知らない。
けれど二人がそう遠くない未来、結ばれて幸せな姿を見せてくれるんだろうと思った。
柄でもなく口元が緩む。
「だからって家にずっと閉じ込めてんじゃねえだろうな。この辺にあんまり知り合いとかいねえんだろ?」
「まだ傷が完治してねえんだ。もう少ししたら外にも出して、そしたらダチの一人や二人できんだろ。そーなりゃお前と飲む必要も無くなるな。」
意地悪く笑っているこいつの顔は大分腹が立つが、それはそれでAにとっちゃ正直いい事だと思っている。
たまたま道で助けただけの関係。
それでも見知らぬ土地で懸命に生きようとするAは、放っておけば簡単に消えてしまいそうな気がした。
何処か気に掛けてしまって、話し相手としてこうして飲んでいるわけだ。
万事屋は泥酔したAをおぶると、「あーもうお前酔いすぎだっての。」とぼやいた。
呂律が回らないAは良く意味の分からない単語をいくつか零す。
その様子を見守るやつの目には、緋色の優しげな光が映っていて―――それにこたえるようにAは抱き着いた銀髪に顔を押し当てた。
奴は首元に顔を埋められてくすぐったそうな仕草を見せる。
あれが憎まれ口ばかり叩くちゃらんぽらんで、かつて白夜叉と恐れられた男の顔か。
「じゃあそいつちゃんと持って帰れよ。じゃあな。」
財布から二人分の飲み代を出して、カウンターに置いたまま立ち上がる。
店から一歩外に出れば、足元を夜風が吹き抜けた。
今夜は冷えるみてぇだ。
頭上の月は煌々と夜の街を照らしている。
317人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年6月10日 21時