安堵 ページ12
「ほんとに何も無かった?」
「.....何もないよ。ただ傘忘れた私を届けてくれて。」
「あいつに手ぇ出されそうになってるようにみえたんですけど。」
「頬に泥が跳ねてて、ふき取ってくれただけ。」
「…んだよ、銀さんすっげ心配しちゃったんですけど。くっそーー恥ずいわ。」
たったこれだけのやり取りと言い訳だけで、銀ちゃんは本当に私の言った事を鵜呑みにした。
公衆の面前とは言えど人っ子一人いない場所で、あの状況を目にしたというのに。
きっと私を信用しきっているんだろう。
まさか浮気なんかするはずない、と。
だからこそ今キスなんかを見せつけても意味がない。
少し怪しい素振りを見せながら疑念を彼の中に蓄積させていって、最後一気に崩さないと。
「あーほんと。仲良いのは知ってっけどそれも気に食わねえし、触れさせたくねぇ。」
別にどこにも行ったりしませんから安心してくださいって、いつもだったら宥めるように言うのに。
今日は嘘でも口にできなかった。
ぎゅうと抱きしめ甘えてくる銀ちゃんは、とてつもなく可愛らしい。
前に本人に言ったら「男に可愛いは厳禁だろ。」と突っ返されてしまったけれど、このただ存在を求められる感じが、たまらなく好きだ。
私にそんな事言う権利無いのは知っている。
それでも目の前のこの人が愛おしくてたまらないのだと、全身が叫んでいるみたいだった。
非道徳的な関係を結ぶことに興奮だとか快感は無い。浮気なんてたぶん性に合わないんだ。
「ねぇ銀ちゃん。キスして。」
「何A。珍しいじゃん。」
「なんか、してほしい気分。」
「はいはい。」
最初は触れるだけのキスが何回か降ってきた。
甘くて甘くて溶けてしまいそう。
私にとってこの人は、本当に砂糖で出来ているみたいだ。
キスは徐々に深さを増していき、お互いの舌を絡ませる。
息をしている暇すら惜しいと言わんばかりにふかくふかく、全てを食べ尽くされてしまうみたいに。
「銀ちゃん。」
「なーに。」
「大好きだよ。たぶんこれからもずっと、大好き。」
「....誘ってんの?」
「もちろん。」
好き。
そう口にするのは、これで最後にしよう。
私にはあまりに不相応な言葉だ。
こうして彼に愛され、彼の女でいるのも。
今日で最後。
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月見おはぎ - ただの思い過ごしかもしれませんが、物語の中にDOESさんの曲名が入っていて銀魂愛を感じました。最高のお話を有り難うございます。 (2021年9月26日 18時) (レス) @page11 id: f413eaa44e (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - コメントするのこれが初めてです、、今まで読んだ作品で一番切なくて一番胸が痛くなって一番感動したお話でした。素敵な作品をありがとうございました。。 (2020年3月17日 23時) (レス) id: 97657b2818 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - なるぽんずさん» 燻った想いたちが不完全燃焼の状態で終焉を迎える。そんな物語を目指しました。そのようにおっしゃって頂けてうれしい限りです。課題頑張ってください...!高杉長編と沖田の心中ロメオを更新しております。そちらの次作でもお付き合いいただければ幸いです。 (2017年7月31日 21時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
なるぽんず - 読んでいて胸が苦しくなるような、心に響くお話でした。読み終わった今も悶々とした気持ちでいます。夏の宿題の読書感想文、できることならこれで書かせていただきたいくらいです(;_;) 切なくて悲しいけれどじんとくるお話をありがとうございました。次回作楽しみです (2017年7月31日 13時) (レス) id: fa67502a01 (このIDを非表示/違反報告)
しののめ(プロフ) - ローズさん» 執筆している側としても居酒屋あたりを思い返すと、考えさせられるものがあります....。最終話以降の展開の細かい展開は、やはり読者様達の御想像にお任せしたいとおもいます。こちらこそ、最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 5bb7c4f37e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しののめ | 作者ホームページ:http://nanos.jp/aoikasou/
作成日時:2017年6月10日 21時