8éme livre Mort de 3éme année

Trois-cent-soixante-douze ページ38

一色が作った椀物

椀物の汁物は
ベースの汁、香り、そして椀種と椀妻なんて
いくつかの重要な要素が出てくる

ベースの汁は蛤の昆布のあわせ出汁に野ウサギのガラ
香りは…ゆずか？

そして後は…それ以外の所の要素だけれど
ベースの汁だけでも複雑に組み上げられているのに
さらにまだ工夫がありそうだ


「各素材の色味や盛り付けの美しさ」

「まるで美術工芸!!」


既にベースの汁で審査員の驚きを引き出していて
中身の具の部分は


「ありゃ餅か？」

『…そうだね』


メインの椀種はどーんと真ん中に鎮座している餅
そのうえに各種の野菜類が椀妻として
色どり、風味を添えている

審査員の方でも
椀種の餅に箸が伸びた時


「ど、どういう意味？

私が居なかったら
料理を続けていたかどうかも分からないですって…？」


紀ノ国さんと一色の会話が聞こえてきた


「君が気づいていないだけで、
君はボクの恩人なんだ」

恩人？

「…え？」

「じゃあ少しだけ
僕の話をしようか」


そこから一色が語りだした過去
幼い頃から名門に生まれ、修行の日々
けれど


「達成感はなく、一族の誰かから賞賛されることもない
来る日も来る日も無味乾燥な気持ちで修業をこなす

その頃の僕はね、
料理というものが何の為にあるのか
本気で分からなかったんだ」


『…キツイな』


いつも楽しそうに極星寮で笑っていた一色からは
あまり想像できない過去
なのに

『よく、今まで続けて来れたな』


本当に強いんだ


すると、



「こっ、これは

清らかなお吸ましが色づいていく!」

え？


「このまろやかな香り

味噌です!!

澄まし汁が一瞬で味噌汁に化けてしまいました!!」


審査員の更なる驚きの声が飛んできて
会場に味噌の香りが充満する


「すげーー!!」


隣じゃ竜胆のテンションも上がっていて


振り返った一色が
解説に入った


「お答えしましょう

その餅の中身は野ウサギ肉のミンチと長ネギ

それらを白味噌でじっくりと炊き上げたものです!!」



『味噌…か』

「んどうかしたかA？」

『いや、チョイスが流石だな、とおもってさ』

「？」


隣の竜胆に向けて説明する


『味噌の味ってのは旨味、甘味、塩味、酸味、人間の五味を程よく含んでて
一色が選んだ白味噌は少しだけ甘味が強いんだ

だから、クセの強い野ウサギともピッタリだし、第一段階の合わせ出汁は
多分…塩味が強め』


「また味変で客の楽しさが増すってわけだな」

『そうそう』


一体どれだけ使って
組み上げたんだろう味の奥深さ

「さぁ

具を味わってからもう一度
汁をすすってみてください!!」

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