恋は甘くない。(黄) (ページ30)

今日:117 hit、昨日:125 hit、合計:113,567 hit

30 ページ30

スーツ姿の女性…多分、マネージャーだろう。支配人と優希だけ会議室から出ていき、わたしとマネージャーさんだけ、取り残されて。

空気が、重い。

『あなた照のなんなの？』

その言葉とその目つきで、マネージャーとしてだけではない、個人的な感情もそこにあると感じた。

…なんて答えるのが、正解なのだろうか。

｢…昔からの知人です。久しぶりに会ったので、つい話が弾んでしまって｣

わたしの言葉に、表情ひとつ変えない彼女。

『…照はあなたのこと、“ 大事な人”って言ってたけど』

“ 大事な人”

その言葉に、思わずピクリと反応してしまって。

彼女はそれを、見逃さなかった。

『…単刀直入に言います。照のことは諦めてください』

彼女の言うことは、何も間違っていなくて。

『今彼らはとても大事な時期です。そんな時に、あなたみたいな虫が1匹つくだけで大事になるの。…昨日それが、わかったでしょう』

悔しい。けど。何も言えない。

照のことを考えたら、わたしなんかが一緒にいてはダメなことくらい…言われなくても、わかってる。

『あなたと照の過去に興味は無いけれど。…今の照には、あなたは必要ない』

吐き捨てるようなそのセリフ。…胸に、突き刺さる。

｢…すいません、少しお待ち頂いてもいいですか？｣

そう言い会議室を出て、自分のロッカーへ向かう。

紙袋を持ち、再び、会議室へ。

｢…お待たせいたしました。…これ。｣

マネージャーさんに、紙袋を渡す。

彼女はその中身を、ちらっと確認して。

｢…昨日、彼からお借りしたものです｣

いつ会っても渡せるようにと、借りていた帽子とハンカチを持ってきていたのだ。

『…物の貸し借りで、会う口実を作ってたって訳？…卑怯な人。』

…息が苦しい。

『…二度と照の前に現れないで』

そう吐き捨て、彼女は会議室から出ていった。

一気に力が抜け、その場にしゃがみこむ。

恋は甘酸っぱい、なんて言うけれど。

｢…苦すぎでしょ、こんなの｣

甘い甘い恋愛なんて。

わたしには、無理なんだ。