悪者？【3年A組】

56.良かった？ ページ12

水越「そんなの、ないよ………！！」

　肩を震わせて水越は泣いている。


水越「知らなかった…！

　私の身体のことも、先生が苦しんでたことも、

何も知らなかった……！」


柊「なのにお前は、
坪井先生に逆恨みをして、
この動画を撮った。」


水越「…どうしよう……
あんな動画…、どうしたらいいの……？」


柊「…この動画は、ネットに流れてない。」

　
　水越が顔を上げた。


柊「結城が動画を投稿する前に止めたんだ。」


結城「……ごめん、黙ってるように言われて…。」

　
　水越は力なく座り込んだ。


水越「よかった………、」


　クラスが安堵の雰囲気に包まれるのも束の間、余韻に浸らせる隙も、与えてくれないらしい。


　「せんせー」は。


柊「''良かった''？」


　そう言って水越を蹴った。


柊「何が良かったんだ、おい、」

柊「お前が、この動画をネットに流そうとしたことに変わりはない！」


水越「でも…、」


柊「でもじゃないんだよ。」


　ドアに叩き付けられる水越の背中。


　さっすがにこれはやっべーな。



柊「この動画が世間に拡まってたら、坪井先生がどんな目に遭ってたか

よく考えたのか。

なぁ！考えたのか！


お前の不用意な発言で、身に覚えのない汚名を着せられ…

本人が！家族が！！友人が！

…傷付けられたかもしれないんだ。」


　水越の恐怖に染まった目、懐かしいなぁ。

　ぼくには親近感しか湧かないね。


柊「お前は、取り返しのつかないことをしようとしたんだ！

なぁ、 わかってんのか！！」


　分かってねぇから「良かった」なんて言ったんでしょ。

　せんせーって鈍感なのかなぁ？


小宮山「もういいじゃん！！」


小宮山「しょうがないでしょ……、

　結局やってなかったんだから
もう許してあげなよ！」


中尾「そうだよ…、」

中尾「涼音だって反省してんだよ…」



柊「…何がしょうがないんだよ、おい、

何を反省してるんだよ！

お前ら、いい加減を目を覚ませよ！

…変わってくれよ！」


　中尾の声を遮ってせんせーは叫ぶ。


　はっきり言ってこれは「正論」だ。


　教育者の鑑、そんなことを話してる。


　

　こんな人だらけだったら、ぼくもこんな奴にならずに済んだかな。


　誰も離れなくて、誰からも離れなくて、


　泣いて、笑って、愛して、愛されて、


　そんな風に、生きれたかな。
　

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