私の口紅。【となりの坂田。】/ぱふとぅん ページ8
「あ〜かっこいいなぁ…」
女子の群れからすこーしだけ離れた場所で遠目にミルクブラウンの髪色をした彼を見つめる。同じ学校、同じ学年、同じクラスと言えど人気者の彼と話すなんてそんなの滅多になくて。話せたら奇跡、言うなれば人気アイドルと1:1で会話をするようなものなのだ。
だからこんなの、有り得ない。何かの間違い。夢、そう夢。全学年の女の子の理想の彼氏とも言える彼_____浦田くん____が今、私の前で微笑んでいる、なんてそんなの…。
なんてことを考えているうちに、浦田くんはするりと私の頬を撫で、ふわりと天使のような微笑みを私に向け、こう言った。
「…ねえ、俺の彼女になってよ」
.
あれから数日。浦田くんの告白(?)に二つ返事で頷いた。とは言うものの、恋人っぽいことをすることはなかった。一緒に帰るわけでもない。一緒にお昼を食べるわけでもない。ましてや会話なんてまずない。彼は相変わらずたくさんの女の子に囲まれて生活していた。
「夢だったんじゃないの、それか妄想」
リンゴ100%!と書かれたパックのジュースをズコッという音を立てながら飲む私の親友_____紗音_____が興味無さそうにそう言った。
「なんてこと言うの!!」
「だって有り得なくない?会話もない、目も合わない、ましてや手を繋ぐなんて以ての外」
「うぐ…」
「問い詰めてみれば?私と浦田くんの関係はなんですか!!って」
「いやいや無理無理。さっき紗音も言ってたけどまず話せないの。連絡先も交換してないし、為す術ない」
「っはあ!?!?連絡先も交換してなかったの!?」
「…うん」
呆れた、とでも言うように紗音はため息をついて、お昼ご飯のメロンパンを口に入れた。分かってる、浦田くんと私の関係がおかしいことくらい。だけどずっと憧れだった浦田くんと付き合えたんだ。もう少しくらい、夢を見させてよ…なんて。
そんなことを思っていると、頭にズシと重たい何かが乗っかった。
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