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私に銃口を向ける真似をして、後ろの男の眉間を撃ち抜く。
それを皮切りに私も左側に居る女の首をナイフで掻っ切って、右側に居る男の心臓を銃で撃ち抜く。
残りあと一人、と言う状況を考える間も無くセンラが残り一人を射殺した。
「演技上手いなぁ…悲劇のヒロイン?」
「狡賢さが専売特許ですからね」
「まあ俺も素早さが専売特許ですわ」
「……この理想のカップル、としての演技もいつまで続けるんですかね」
「上からの命令なんでしゃーないでしょうAさん」
理想のカップル、とよく言われる。
けれど、それは私達がカップルを演じているからであって、心の底から愛し合っている訳ではなかった。
私達は外国のマフィアに売られてその下で働いているので逆らうことができない。
上からの命令を聞いて行く内に、カップルのふりをして任務を遂行した方が効率が良いだけだから愛なんて存在するはずがなかった。
なのに、私はセンラと一年ともに過ごして、いつしか惹かれてしまっていた。
何とも不運なことに惹かれてしまっている自分が居て。私はそんな自分を自分で酷く恨んだ。
よりにもよって同じ人間の、結ばれるはずのない人間同士なのに惹かれてしまうだなんて。
「よし。帰ろうか、A」
「…うん。帰ろうか、センラ」
A、センラ、と呼び合う時だけはカップルで居られる。
けれど、これがAさん、センラさん、と呼び合う時はただの同業者。ただのマフィアの幹部同士。
それ以上でもそれ以下でもないのだ。
だから、恋愛感情なんて持ってはいけないのに。
「今日はシチューやったなぁ。早くAの手料理食べたいわぁ」
「うん。センラのために頑張って作るからね〜」
今の関係が心地よい。
誰にも邪魔されないし、好きな人と一緒に居られるこの関係が心地よい。
心地良いけれど、いつか終わりは来てしまうものだから。
いつ彼が私のことを邪魔だと思うか分からない。だから、必死に彼の足手纏いにならないように、彼とうまいコンビとしてやっていけるように頑張っていかないといけないのだ。
空に流れた星に願い事なんてしなかった。
星に願って願いが叶っているなら今頃マフィアになんて買われていない。
キラリと輝くその星も、空に浮かぶ綺麗な満月も、彼に比べれば何ともない当たり前の輝きであった。
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