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時は過ぎて、クリスマスイブ…の、前日。
出勤時に使う道もどんどん赤く、明るくなっていって、それに反して私の心はどんどん暗くなっていった。
ぼっちクリスマスが悲しい?ううん、そうじゃない。そうじゃないの。
じゃあ、何でこんなに世界が仄暗く見えるの?
彼女より、仕事を優先されたから。
彼からそれを言ってくれなかったから。
一緒に過ごせなくたっていい。また来年過ごせばいい。
「ごめんね。夜電話するから」だとか。
「別日にちゃんと埋め合わせるから」だとか。
そんな言葉が欲しかったの。
でもそんなわがまま言えるわけない。
こんな日に限って定時に仕事を上がり、家に帰る。
コンビニには寄らなかった。
扉を開けると、すぐそこに靴を履き終えた彼方さんがいた。
彼のそばには大きな荷物。
「…あ、Aおかえり」
『ただいま、彼方さん。…もう行くの?』
「…うん」
『そっか。気をつけてね』
それ以上、気の利いた言葉は言えなかった。
『気をつけてね』 それが精一杯だった。
明日からひとりぼっちだ。
やだなぁ。寂しいよ。こんな家、私ひとり暮らすには広すぎるよ。
私を見つめる彼の視線に耐えきれなくて、荷物を置いて『見送りするよ』と言おうとした。
その時。
「一緒に行こ、A」
『…え、』
不意に聞こえたその声に、反射的に聞き返してしまう。
何言ってるの。
そう思ったけれど、趣味の悪い嘘じゃないかと疑ったけれど、彼の瞳は小揺るぎもせず私を穿った。
「大阪、行こ」
『…えっ、でも、飛行機…』
「席はとってるから」
それとも、俺と過ごすクリスマスは興味ない?
眉尻を下げてそんなふうに言う、私の彼氏さま。
ああ、ずるいよ。そんなのずるいよ。
席とってるなら、言ってくれればよかったのに。ほんと、マイペース。自分勝手。だいきらい。
でも。
『だいすき、』
「…俺もだよ」
メイクが流れ落ちることなんか気にせず、溜めていた鬱憤ごと涙を流した。
彼方さんは、ふっと微笑んで、安堵するように愛おしむように私を抱きしめた。
頬に添えられた彼の手は少し冷たかった。
でも、手が冷たい人は心が温かい。そんな話をどこかで聞いたことがある。
彼の手が冷たくてよかった。
心からそう思った。
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音溜 - 作者様が豪華すぎる、、!! 生きててよかった、、(^ω^) (2019年12月28日 5時) (レス) id: 826a111be6 (このIDを非表示/違反報告)
人 - 私の大好きな作家さん面白いです…聖夜いいですね! (2019年12月25日 23時) (レス) id: 85e6f3523b (このIDを非表示/違反報告)
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