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少女は隣のビルの屋上に跳び移り、ドアを開けて階段を降りていった。二個下の階には、少女の言いつけ通り、腰に命綱を巻いて、少女の命綱を両手でしっかりと握っている弟が待っていた。


「大丈夫?」


少女が両鼻にティッシュを突っ込んだ弟に聞く。ここを出る前、三十分ほど前に新たなティッシュを詰め込んだばかりなのに、ティッシュの先端の方まで血が滲んでいた。弟はこくんと頷いた。


「もうこれで鼻血出なくなるから、ね」


そう言ってボンベの蓋を回そうとするが、びくともしない。ただでさえ非力な少女が、数日間まともにご飯を口に入れていないのだから、開けるのは到底無理なことであった。


「いたぞ! こっちだ!」

「ちっ、くそ……」


男たちの声が再び近づいてくる。少女は小さく舌打ちをした。

もう命綱は用意していない。少女は死を観念した。


「姉ちゃん……?」

「ごめんねぇ、姉ちゃんが下手に抗わなければもうちょっとここにいられたんだけど……」


腰に命綱をつけた男たちが降りてきた。いくつもの銃口がこちらに向いている。


「大人しくそれを返せ」


少女はそれに答えず、男たちの方をちらりと見ることもなく、弟と自分の命綱をほどいた。


「父ちゃんと母ちゃんのところ、一緒に行こっか」


少女の両親は、重力を持っているという青年を探しに出たきり、帰ってこなかった。恐らくもう地球にはいないだろうと少女は踏んでいた。


「おい、聞いてるのか!」


少女はボンベと弟を抱き抱える。せっかくここまで持ってきたボンベを男たちに渡すのは癪だった。

ふらふらとガラスの嵌め込まれていない窓へと歩く。


()なこった」


少女はにやりと笑って窓から真上にボンベを投げ上げた。


「てめぇ何しやがる!」


何人かの男が慌てて屋上へと向かおうとするが、互いの命綱が絡まって男たちは次々と倒れ込んでいく。少女は、男たちが引き金に手をかける前に、弟を両腕でぎゅっと抱きしめ、窓枠を強く蹴った。


重力の減った地球は二人を引き止めることはなく、二人は空へ飛び立っていった。息苦しさを感じる前に、二人は眠るように意識を失った。

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設定タグ:市販書き , オリジナル , 小説   
作品ジャンル:SF, オリジナル作品
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綾木 麗(プロフ) - ぺぽんさん» うわーありがとうございますーー!!作品は二次創作が中心なのですが、気が向いたらまたこういったオリジナルも書いてみようと思います!お読みくださりありがとうございました!! (2022年12月25日 19時) (レス) id: 5a575a9999 (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - こんにちは、とても面白かったです!先の展開が分からないのでドキドキしました✨麗さんの考える世界観が好きです!これからも頑張ってください😊 (2022年11月11日 18時) (レス) @page10 id: 83a944f022 (このIDを非表示/違反報告)
綾木 麗(プロフ) - 朱まぐさん» ありがとうございます!こういった形式の小説を公開するのは初めてだったので、そのようなお褒めの言葉をいただけて本当にありがたいです…!あと一話ほどで完結しますので、お待ちいただけたら嬉しいです👍 (2022年11月9日 16時) (レス) id: 5a575a9999 (このIDを非表示/違反報告)
朱まぐ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します。お話とても面白かったです!文章も読みやすくて一気に読み進めてしまいました。序盤で出てきた使者と姉弟がどうなるのか気になります。無理せず作者様のペースで頑張ってください☺︎ (2022年11月8日 23時) (レス) @page8 id: d13cf71823 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:綾木 麗 | 作成日時:2022年11月6日 0時

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