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或る少女 ページ5

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「待て!」


男たちの怒声が荒廃した町中に響き渡る。男たちが追っていたのは、身長の半分ものサイズのボンベを抱えた、一人の少女だった。


「『待て』って言われて待つ馬鹿がどこにいるんだよ……!」


毒づきながら少女は腰の紐がしっかりと繋がれていることを確認して、所々塗装の剥げたビルの壁をかけ上った(・・・・・)


この世界には、重力がなかった。

元々無かったわけではない。

今からちょうど二年ほど前、同時に同じ症状──背骨の痛み、歯茎や鼻からの出血、目のかすみなど──を訴える患者が急増した。

それとほぼ同時期に、学校での身体測定で、全国の生徒全員が、前年度より体重が一キログラムほど減るという奇妙な出来事が起こった。

その他にも、数えきれないほどの、現実ではあり得ない出来事が全世界で発生した。

世の中は、世紀末だ、この世界は終わるんだ、と騒ぎ立てたが、それは良くある陰謀論者の戯れ言ではなく、事実だった。


その数ヵ月後、緊急に発足された日米欧の合同研究機関は、地球から徐々に重力が失われていると発表した。原因は不明だった。

すなわち、対処のしようがなかった。

研究機関は、「我々は、そのうち地面に足をつけていることは不可能になるだろう。人間だけでなく、動物も、乗り物も、建造物も、全て宇宙へと飛び立つことになる。我々には、死を待つ以外、できることはないのだ」との声明を出し、研究機関の解散とした。

信頼できる機関からの発表とあって、世の中は大混乱した。

だが、意外にも世界中で暴動が頻発することはなかった。

一時期、NASAやJAXAなど、各地の航空宇宙研究機関に多くの人が集まり、宇宙服や酸素、さらには宇宙船の提供を求めて暴動が起こったが、それらを貰ったとてせいぜい一年程度生き延びられるだけだと悟ると、集まっていた人々は座り込み用の小型テントを撤去し、各々の家へと帰っていった。

皆が自分や家族などのために生きるようになり、世界から戦争はなくなった。

ある意味で、平和な世の中が訪れた。

恐らく、新型ウイルスの蔓延や、侵略戦争を経て、人々の死生観が変化したため、死を受け入れることが容易になったのだろう。


しかしそんな「ある意味平和」な状態は、そこまで長く続かなかった。

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設定タグ:市販書き , オリジナル , 小説   
作品ジャンル:SF, オリジナル作品
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綾木 麗(プロフ) - ぺぽんさん» うわーありがとうございますーー!!作品は二次創作が中心なのですが、気が向いたらまたこういったオリジナルも書いてみようと思います!お読みくださりありがとうございました!! (2022年12月25日 19時) (レス) id: 5a575a9999 (このIDを非表示/違反報告)
ぺぽん(プロフ) - こんにちは、とても面白かったです!先の展開が分からないのでドキドキしました✨麗さんの考える世界観が好きです!これからも頑張ってください😊 (2022年11月11日 18時) (レス) @page10 id: 83a944f022 (このIDを非表示/違反報告)
綾木 麗(プロフ) - 朱まぐさん» ありがとうございます!こういった形式の小説を公開するのは初めてだったので、そのようなお褒めの言葉をいただけて本当にありがたいです…!あと一話ほどで完結しますので、お待ちいただけたら嬉しいです👍 (2022年11月9日 16時) (レス) id: 5a575a9999 (このIDを非表示/違反報告)
朱まぐ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼します。お話とても面白かったです!文章も読みやすくて一気に読み進めてしまいました。序盤で出てきた使者と姉弟がどうなるのか気になります。無理せず作者様のペースで頑張ってください☺︎ (2022年11月8日 23時) (レス) @page8 id: d13cf71823 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:綾木 麗 | 作成日時:2022年11月6日 0時

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