1177話 私は明日、本気の君と戦いたい ページ47
Aとの通話を切り、再びちぎれたミサンガを見つめる。
自分は一度死にかけた。本当なら死んでた。だけどこのミサンガのおかげで──Aのおかげで死ななかった
だから大丈夫な気がして心が軽くなった。あ、今度シブヤに遊びにおいでよって言うのを忘れたな……
乱数は穏やかな顔で建物を出る。
気が付けば外は暗くて、吹き抜ける風は冷たくなっていた。Aと喋らなかったら、きっとこの風の冷たさに泣きたくなっていた。彼女へ感謝の気持ちが絶えず、また一歩、また一歩と足が進む
「おや、飴村君」
「っ、じゃ、くらい……」
偶々なのだろうか、寂雷が中王区の街の中を歩いていた。
本当はさっきの話をしたい。しかしそれは叶わない。それどころか嫌悪感を出さなければ、ここは中王区なんだから
詰まりそうだった唾を飲み込んで、出来る限り眉間に皺を寄せた
「こんな所で会うなんてサイアクー。さっきまで可愛いオネーサンと遊んでたのに〜!!」
そんな顔をしないでくれ。
乱数は目の前の男の表情を見て胸が苦しくなった
状況は分かってるが、分かってるからこそ
怒り、絶望、喜び。そんな顔は幾らでも見てきた。だけど寂雷の悲しそうな顔は見てて辛い
「………戦いの前にナンパですか。明日私達に勝つつもりが無いようですね」
冷たく言い放つが、顔とチグハグ。
少し前までそんな顔を向けなかったのに。段々と乱数は可笑しくなって、嬉しくなって、無理をしなくても嘲笑う顔を作れた
「アハッ☆そんなのボク達が勝つに決まってんじゃーん。誰が寂雷にラップを教えたと思ってんの?」
「ラップを教えて頂いた事には感謝しています。ですが教えたからと私が君に劣っているなんて道理はありません」
「やっぱウッザーイ!!」
乱数はそう大きく言えば、ぴょんぴょんと軽い足取りで寂雷に背を向けて自分達が泊まっているホテルへ進む。すると後ろから寂雷の声が掛かった
「飴村君」
「何?」
「私は明日、本気の君と戦いたい」
風が強く吹かれる。それに掬われた長髪は靡き、その隙間から見えた鋭く全てを見透かす様な目が細められる
今の僅かなやり取りで察したのかもしれない。自分の状況が。
敢えて“飴村君”と言わなかったのは絶対に偶々だ。自分がクローンなんて知る訳ないから。でも君と言った事で他の乱数でもない自分だけを必要としてくれた様で、状況を忘れて笑ってしまった
「ボクも後悔無く戦いたいな!」
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作者名:刹那 | 作成日時:2024年3月4日 0時