1168話 DRB決勝トーナメント前日 ページ38
────時は流れ、DRB決勝トーナメント前日。
《いよいよ始まりますDRB!!既に予選から熱い展開が繰り広げられております!!》
肌寒い風がそよそよと肌に触れる明け方。
理鶯のベースに置かれたラジオから、明日始まるDRBの熱気が高らかに響いていた
暗がりの中でほんのりと明かりを灯す焚き火の横で、理鶯はリュックサックに荷物を纏めている。
そんな彼の後ろでAは、そわそわと落ち着かない様子で見守っていた
「む?どうかしたか?」
神経を尖らさずとも感じ取れる視線に、理鶯は作業の手を止めて振り返る。すると彼女はあわあわと申し訳なさそうに両手をブンブンと横に振った
『い、いえ!!なんでもないんですけど、何故か私が緊張して……!!』
「ふふ、そうだったか。確かに世間は祭りの様に囃し立てているからな」
『わわわ私、全然出場者でもないのに……』
「身近な存在が出場するのだから仕方無いだろう?それが普通だ」
理鶯の言葉でも未だに申し訳なさそうな彼女。
準備を終えた理鶯はリュックを背負いながら立ち上がり、感受性豊かなAの頭を優しく撫でた
「ではこう考えよう。Aは小官に代わって緊張してくれているのだと」
『え……?』
「今回の戦いはただ優勝するという目的だけでは無い。それ以上の意味がある。それ故に軍人である小官も多少の緊張はあった。しかし、貴女が代わりに緊張してくれたおかげで、小官の緊張は無くなったようだ」
彼の言葉は本当である
優勝し、少佐を助ける。それは簡単な事では無い、だから負けられないとどうしても体に力が入ってしまっていた。
なのだが、横でもっと緊張している存在が居れば可笑しくてリラックスできた。Aの存在が彼の緊張を解し、改めて覚悟を固められる
それ以上の言葉を形にしなかった理鶯は微笑みを深め、Aを包み込むように抱き締めた
『────っ、』
理鶯の耳に、Aが息を呑む音が届く。
きっと驚いているのだろう。だがこの時は静かにしていて、珍しく力の籠った腕で抱き締め返してくれた
「必ず優勝する」
『っ、はい……!!』
僅かに理鶯の中で期待はあった
───“応援してます”
その言葉を言ってくれるのではないかと。
しかしそれが聞こえる事は無かった
理鶯は理解している。
彼女が優し過ぎる所為で、“誰かを”、と選べない事を。
誰かが勝てば、誰かが負けるという当然の真理を受け入れにくいという事を。
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作者名:刹那 | 作成日時:2024年3月4日 0時