1164話 本当の彼を聞くまで待とう ページ34
乱数の言葉の真意が分からない寂雷ではない。
思った様な結果にはならなかったと拳に力が入る。しかし乱数は満面の笑顔を見せて、昔の様な鈴のように楽しげな声色を響かせた
｢ありがと寂雷っ！ボクを知ろうとしてくれて！！それだけで今はジューブン！！｣
｢っ…………。｣
｢い、いつかさ……！！話せる時が来たら、もう逃げない。だからそれまで老衰しないでよー！！｣
｢当たり前です、まだ私は35歳なんですから！オジサンとは呼ばれても、ジジイと呼ばれる歳ではありません！！｣
｢アッハハ☆ボクにとったらオジサンもジジイもいっしょー！！じゃっ！バイバーイ！！｣
キラキラと眩しい笑顔に嘘は無かった
やれやれと肩を竦めた寂雷は、苦笑いを浮かべながら手を振る。外に出れば敵同士、つまり敢えていがみ合わなければならない。それは辛いモノだが、彼はその中で心を殺し嘘をつき続けてきた
タッタッタッと中途半端に空いていた扉の隙間から足音が遠くなる。
珈琲の最後の一口を飲んだ寂雷は、ゆっくりと立ち上がって伝票を持ってレジへ行く。実は彼自身も緊張していたが、彼と話せてよかったと満足感が溢れていた
彼が本当の事を話せるまで、焦らず待とう。彼は自由に動けない状態で悩み、嘆いていたんだ。それを知れただけで充分。あの笑顔を見れただけで充分
────さて、ここから出てしまえば彼を嫌いにならなければならない。それはとても心が痛い。漸く本当の彼を知れたのに、遠ざけなければならないなんて
更に一郎や左馬刻も表面ではいがみ合わなければならないなんて。きっとあの2人も話し合って、昔みたいに戻ってるかもしれないのに
全く、この世の中は理不尽だ。
寂雷は静かに嘆き、会計を済ませて店を出る
｢───じゃんかよ！！な！な！｣
｢おやおや帝統、この前も乱数にお金を借りていませんでしたっけ？｣
｢そ、そうなんだけどよ！もうスっちまって！！もうマトモな飯暫く食べれてねぇんだ！！助けてくれ！！幻太郎はもう無理って言って見捨てるんだ！！｣
｢見捨てるとは語弊がありますねぇ。もう借金が膨らみ過ぎてこれ以上は難しいと言ったんです｣
｢一緒じゃねぇか！！｣
外に出れば、道路を挟んだ反対側の歩道に彼とその仲間がいた。車の過ぎ去る音が頻繁に邪魔をするのに、彼らの賑やかなやり取りは鮮明に聞こえる
乱数の話からこの場に居るのは賢明でないのに、寂雷は何故だがこのままに聞きたくなっていた
1165話 また会いましょう→←1163話 争う事を望む連中だっているから
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作者名：刹那 | 作成日時：2024年3月4日 0時
