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1156話 ぶつかり合うリリック、握るその手。 ページ26

二郎と三郎が固唾を呑んで見守る中、2人の魂が込められたリリックがぶつかり合う。
怒り、悲しみ、憎悪、恨み。感謝、恩、尊敬、家族愛。
混ぜ込まれた感情は、何度も何度も相手にぶつかり膝を突かせる。しかしこんなモンじゃないと、立ち上がり再び自身の魂を放つ


汗か涙か、透明な液体を流す姿は痛々しくも勇ましく、カッコイイ。魅入られた二郎と三郎も涙を流して自然と拳が作られる


───ただ兄が嫌っていたから嫌いだった。でもリリックに乗せられて語られる敵は、孤独な兄にとってどんなに救いだったか。助けが呼べなかった兄が唯一信頼し、手を伸ばせた大人。彼の生き方の基盤になった人物。
そんな存在だったのだと、2人は認識を改めた











短い時間だが酷く長く感じた戦い。
その終わりは、突然やってくる









「───はぁはぁ…っ、」

「ア゙──ハァハァ…ッ!!」


もう限界だと自分のターンなのに口から言葉が出なくなった一郎は、床に両手と両膝を突きマイクが元の姿に戻ってしまう。それを見届けた左馬刻も、マイクを解除しバタリと力無く前に倒れ込んだ


「ハァッ、ハァッ……っ!!っうぐッ……ハハッ……先にテメェがマイク解除したから俺様の勝ちな」

「何言ってんすか、アンタの方が先に倒れ込んだんで俺の勝ちっすよ」

「ダボ、こん時は先にマイクが戻った方が負けなンだよ」

「レスリング知ってます?アレ、両手両膝頭を床に着けたら相手に2ポイントなんすよ?」

「これはラップバトルだろうがダボ」


負けず嫌いな2人は不毛な争いを続ける
殺伐とした雰囲気から穏やかで懐かしい空気。手を突いていた一郎も力が抜け倒れ込む。
全てを出し切った2人の顔は清々しく、同じタイミングで寝返り天井を仰いだ


平和な静寂。子供の様な言い争いの後、部屋に響いたのは小さく息を噴いた軽い音


「ぷっ……」

「ふっ……」

「「アッハハハハッ!!」」


両目を利き手で覆い、抑えきれない笑い声を上げた一郎と左馬刻。あまりにも盛大な笑い声に二郎と三郎はお互いを見合わせて目をパチクリ


「テメェ変わんねぇな、負けを認めねぇのは」

「はぁ?それはこっちのセリフだ」


ゆっくりと立ち上がった左馬刻は、躊躇いもなく一郎の手を差し伸べた。
左馬刻の優しい微笑みに、昔の面影を見た一郎。潤ませた目を見開いた後に迷わずその手を掴んだ


「強くなったな、一郎」

「アンタもやっぱ強ェよ。左馬刻」

1157話 もうアンタの事を“左馬刻さん”なんて呼ばねぇ→←1155話 なのに俺は────



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作者名:刹那 | 作成日時:2024年3月4日 0時

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