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1155話 なのに俺は──── ページ25

「───ッ、一郎…!?」


一郎がマイクを起動した事により漸く振り返った左馬刻は、戸惑いの声で名前を呼んだ。それに対し、一郎は衝動のままに吼えた


「いつもアンタはそうだ!!勝手に決めつけて、勝手に突っ走って!!何で俺の話を聞いてくれねぇんだよ!!何で俺の……俺の事を信じてくれなかったんだよ!!」

「っ……一郎…」

「ずっと嫌いだった!!アンタのそういう所がァッ!!」


感情が溢れ、吼え続ける兄を追いかけた弟達は、左馬刻と同じくマイクを起動した事に戸惑う。だが止めに入るという無粋な真似はせず、見届けなければならないと不安げな表情で見守っていた


「テメェもマイクを持て左馬刻ィ!“あの時”は俺が弱かったが、今は違う!!俺はアンタを倒す為にずっと力をつけて来た、進んで来たんだ!!こんな形で終わらせたくねェ!!」


見開いた紅い目は過去と今が交互に見えていた。
やんちゃで犬のように慕ってきた弟分、足に縋り付いて懇願してきた裏切り者、憎しみの目で睨んできた敵、そして昔のように我武者羅に生きてきた一郎


「アンタは俺の全てだった!!弟達の為に生きてきた俺に色んな事を教えてくれたッ!!頼れる人だと思ってたのに!!俺は最後まで左馬刻さん(・・・・・)ならしないって信じてたのに!!」

「ッ………」

「俺はそんなに信用なかったか!?中王区側で、アンタの大事な合歓ちゃんを唆すクソ野郎だって思える様な俺だったのかよ!!」


思っていなかった。だからこそ裏切られたと思った瞬間、今まで感じた事の無かった憤怒を覚えたのだ。
左馬刻は何も言わず、一郎の言葉を受け止める為に見据えた


「ずっと俺は言われようのない事で憎まれ続けて、尊敬してたアンタに弟を殺されかけた!!なのに……」


グ……とマイクを握る手を強めた一郎。
それに呼応するように彼のスピーカーも荒々しいトラックを流し始める


「なのにッ、左馬刻さんから貰った物が多すぎて俺は……─────アンタを完全に憎めなかった俺自身にもムカついてたんだよ!!」

「ッ!?」


酷く一郎の声が脳に反響した。
濁りのない響きは、左馬刻の心を大きく震わせた


「いい機会だ左馬刻ッ……!今まで俺が抱いてた感情全部リリックにぶち込む。だからアンタも全部受け止めて全力で来い!!俺も全部受け止めてやる!!」

「ッ……はは、一郎……その言葉────後悔すンじゃねぇぞ…ッ!!」


触発された左馬刻は不敵に笑い、マイクを起動させた

1156話 ぶつかり合うリリック、握るその手。→←1154話 自ら大好きだった時間を壊した



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作者名:刹那 | 作成日時:2024年3月4日 0時

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