1154話 自ら大好きだった時間を壊した ページ24
取り乱す兄に、保護者の様な敵。
何方も見た事がなく、どうすればいいのか分からない二郎と三郎は、心配の眼差しのまま動く事が出来ずにいた
心臓が押し潰される様な空気の中、呼吸が整わない一郎が必死に口を動かす
「な、なぁ…!何で見捨てたんだよ左馬刻さん!俺は最後まで信じてたんだ…!!アンタなら最後まで見捨てないって!!」
「………。」
「なのに……何で、何で“知るかよ”って!何でだよ!!約束してくれたじゃねぇか!!“俺はいなくならない”って!!嘘だったのかよォ!!」
いつもの偉大な兄の姿は無く、置いていこうとする親に縋る様な弱々しさ。胸倉を掴み大きな涙を流す一郎に、左馬刻は目を合わせられず弱い音を吐いた
「そうだな…約束破っちまったな……」
「ッ……」
「俺は結局クソ親父と一緒だった…。感情のままに暴れて、真実から目を逸らして、自分から壊した。──俺はずっと合歓の言葉だけを信じて、お前が合歓に何か吹き込んだ、お前は敵だって決めつけた」
「っ俺は───」
一郎が違うと訴えようとした瞬間、事務所内に一際大きな左馬刻の声が強く反響した
「俺は今まで苦楽を共にしたお前を信じなかった!大切な妹の言葉だからって、同じくらいに大切だった弟分を信じてやれなかった!!自ら大好きだった時間を壊したッ!!!」
「さ…左馬刻……さん…?」
歪み揺れる視界に映ったのは、悔恨の念に駆られ歪む左馬刻の顔。今まで見た事無かった表情。
胸倉を掴んでいた手に力が入らなくなり、ぽすり、とソファに腰が落ちる一郎。心配するように二郎と三郎が、兄の背中摩り彼を呼んだ
「兄ちゃん!」
「一兄!」
反応は無い。代わりに恨めしくに呟く口
「……俺は…ずっと…許せなかった…。嘘つきなアンタを…信じてくれなかったアンタを……」
自分の行った業の深さに、左馬刻の視線は落ちていく。すると彼は一郎達に背を向けて、玄関に足を進ませた
反射的に──そう、反射的に一郎はまた立ち上がり追い掛ける
「おい左馬刻ッ!」
「さっきの話聞かなかった事にしてくれ。テメェから捨てておいて頼み事なんざ、虫のいい話だわ」
廊下へ入る前に一郎の声で立ち止まった左馬刻だが、振り返る事はせず淡々と語る。
このままではもう二度と戻れない。言い表せない喪失感に襲われた一郎は、身勝手な
「待て左馬刻ィイッ!!」
彼の咆哮は“あの時”以上のモノだった
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作者名:刹那 | 作成日時:2024年3月4日 0時