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1153話 お前は中王区側か? ページ23

「左馬刻……!?」


あの左馬刻が自分に頭を下げた。
その衝撃は計り知れず、考えるまでもない答えが何処か遠くに飛んでいってしまう

答えが無く、それが自分の頼みだから渋っているのだと、左馬刻は頭を上げ紅い目を力無く細めて彼は口を開いた


「確かに俺はお前の───命よりも大事な弟を殺そうとした」

「えっ…?」
「なっ!?」


兄から聞いた事がない事実に、二郎と三郎は目を見開いて兄を見た。その兄は2人に顔を向ける事なく、険しく皺を顔に深く刻んで左馬刻を睨む


「何で見捨てたか……教えてくれ」


それは理性で怒りを無理やり押さえ込んだ、低く震えた声。
怒りのままに怨敵をぶん殴りたい、衝動のままに叫び詰め寄りたい。そんな感情が詰め込まれていると感じ取った左馬刻

自身も冷静に話せるように、拳に力を入れて答えた


「────合歓が、人質に取られてた」

「っ………やっぱり、か……」


一郎の溜息を吐くような言い方、嘘をついていると感じさせない姿に、左馬刻は考えたくなかった結論へと辿り着いてしまった。自分は、感情のままに信じず切り捨てたのだと

今回の目的の頼みを一旦置いて、左馬刻は再び尋ねた


「一郎、お前は合歓に何か吹き込んだか?」

「は……!?俺が、合歓ちゃんに…!?」

「お前は中王区側じゃねぇんだな?」

「待て、待ってくれ!!何の話をしてやがる左馬刻!!」


突拍子も無い問いに一郎は着いていけず立ち上がる。
自分が左馬刻の妹に?自分が中王区側?
呼吸が乱れ、視界も揺れて定まらない。ハッとして弟を交互に見ると、信じられないと言いたげに自分を見上げていた

何もしてないのに、拒絶される。
大切な人を失うのがトラウマな一郎は、段々と症状が悪化して取り乱す


「はぁっはぁっ、違う、俺はそんな事してない…!!俺は、俺はァッ!!」

「一郎ッ!!」


ガタン、とテーブルが揺れる。その拍子に湯のみが倒れ、残っていたお茶が零れ、ジワジワと緑が広がった
しかし誰もそれに目を向けていない。左馬刻の焦りが滲む声に、二郎も三郎も2人を見る事しか出来なかった


「一郎……一郎、大丈夫か?俺の声だけ聞いてろ」

「左馬刻…っ、左馬刻さッ、違う、俺は何も…左馬刻さん!!」

「あぁ…分かった。分かったから落ち着け」


左馬刻が────あの左馬刻が一郎をあやす様に抱きしめ、一郎の頭を撫でて落ち着かせていた。
喋る事すら嫌悪する筈の彼が、躊躇う事無く一郎に触れ、優しい声で話しているのだ

1154話 自ら大好きだった時間を壊した→←1152話 彼の所へ訪れる左馬刻



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作者名:刹那 | 作成日時:2024年3月4日 0時

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