1152話 彼の所へ訪れる左馬刻 ページ22
────数日後。
Aが理鶯のベースでのんびりと過ごしている昼頃、左馬刻はとある建物のインターホンを鳴らした
ピンポーン
懐かしくも何処か苛立ってしまう音に続いたのは、客だと慌ただしく迫ってくる足音。それは1人だけではなく、2人が競うように近付いてきた
ガチャッ！
｢こんちわ────って、さ、左馬刻！！？｣
｢えぇ！？何で！！？｣
扉が荒々しく開けられ出てきたのは二郎と三郎。
そうここは萬屋ヤマダ。彼は“話”をする為にアポ無しで来たのだ
｢チッ、左馬刻“さん”だろうが……｣
耳障りな声だと思っていたのだが、あの一件以来考えを改める。未成年特有の生意気な所だと言い聞かせ、舌打ちだけに済ませた彼は、静かに尋ねた
｢一郎居るか？アイツに話があンだわ｣
｢い、一兄に！！？何の話だよ！｣
｢ま、丁度いいか、テメェらも聞いてけや。Aの事だ｣
｢っ…Aの事か…？何かあったのかよ｣
｢だからその話をするから一郎居るかって聞いてンだよ｣
中々中に通さない2人にイラつく左馬刻に、遠くから声が掛かる。それは他でもない一郎で、2人の奥から真剣な面持ちで歩いてきていた
｢居るぜ。中に入ってくれ｣
｢一兄……｣
｢兄ちゃん……｣
｢おい二郎、三郎、左馬刻が通れねぇだろ？道を開けてくれ｣
相手が左馬刻だからか、いつも以上に真剣で低い兄の声に思わず身を僅かに縮こませる2人。言われた通りに壁側に寄って道を開けると、左馬刻は｢悪ぃな｣とらしくない礼を言って中に入っていった
・
｢───急に来るなんて珍しいな。何かあったのか？｣
｢緊急事態じゃねぇから安心しろや、情報共有しに来たんだよ｣
客にいつもしているように、事務所のソファに案内して茶を出すと、左馬刻と向かい合ってソファに座った一郎。その両サイドにはゴクリと唾を飲み込んで緊張する弟2人
自分がいきなり来たらそうなるだろうな、と鼻で笑った左馬刻は茶を一口飲み、少し前にあった出来事を事細かに話た
────今までの彼女には感情の制限が掛かっていた、本当の彼女を引き出す為に寂雷達と協力して成功した、その本心。そして自分達の考察。
いつも直ぐに喧嘩する二郎と三郎なのだが、この時はリアクションはすれど静かで、一郎も目を細めたり唇を噛んだりで最後まで口を挟まず聞いた
話が終わり紅い目が鋭く一郎を射抜いた後、彼はなんとゆっくりと重々しく頭を下げた
｢Aの為に、力を貸してくれ一郎｣
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作者名：刹那 | 作成日時：2024年3月4日 0時
