1133話 同期 ─私─ ページ3
Aから離れたやっさん。振り返ろうとすると、不意に彼女のテーブルに置かれていたジュースが視界に入った
｢ザクロ……か｣
『やっさん？』
｢ザクロジュースは美味かったか？｣
『うん！美味しかった！お気に入り！』
不自然な問いかけだが、無邪気にAは答える。その答えが嬉しかったのか、彼は｢そうか……｣と切なげに言葉を零す。しかしそれはAに届かず、そのまま話を切り上げた
｢じゃあなA、体には気をつけろよ｣
『うん、やっさんも元気でね。今度こそ会ったらいっぱい話させてね』
｢そうだな。怖ェSPがいるかもしれぇが、話をしようか。茶ァでもいいが、最近美味ェラーメン屋見つけたんだ。連れてってやるよ｣
『うんっ！約束！』
やっさんはポンポン、とAの頭を撫でれば背中を向けて歩き出す。かなり目立つ黒いファーだが人混みの中へ簡単に消えていき、胸をチクリと刺す寂しさでAは貰ったコインを握り締める
『──ッ、』
チクリと頭痛が響く。
すると自分の中の
朝から感じてた自分が沢山いる不快感は無くなり、これが“自分”なんだと根拠の無い自信が溢れてくる
『うん……うん、私は私。パパやコウハイ、やっさんに育ててもらったAだし、ハカセに教えて貰って皆に護られて、こうして外を過ごす今の私もA……』
コンピューターが同期するかの如く、目を伏せて呟き続けるA。それは周りの喧騒により掻き消されているが、彼女の同期は進み続ける
『A……私はAだ……──────ッ、』
ふぅ……と息を吐く
ピースがハマった彼女は少し雰囲気も変わり、穏やかな表情で2人の方を見た。
漸く握手会は終わったのか、げっそりした独歩と高らかに笑う一二三が此方に向けて近付いてくる。そんな2人に手を振り笑顔を浮かべた
『お疲れ様です、一二三さん独歩さん』
短い発言だったが、少し雰囲気が異なる事に気付いた2人。目を見開きお互いを見合わせて、再び彼女を見やる。
自身に変化が起きたのを自覚しているAは表情を綻ばせ語り出す
『何と言えばいいのか……。2人のやり取りを見ていたら、自分の中のズレが治ったんです』
｢え……どういう事…？｣
『懐かしくて。それで過去を思い出したのが、良い刺激だったんだと思います』
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作者名：刹那 | 作成日時：2024年3月4日 0時
