1131話 良い子にはプレゼント ページ1
Aの隣に座ったのは紛れもない“やっさん”
記憶が戻りつつある彼女にとってやっさんは慕う人物の1人。迎えが来た子供のように、Aは嬉しそうに笑って隣に座った彼に抱き着いた
彼はサングラス下のオッドアイを細め彼女を見下ろすと、ニィ……と不敵な笑みを浮かべて彼女の頭を撫でる
｢随分とお友達が賑やかにしてんなぁ｣
『はいっ！一二三さんと独歩さんです！』
｢ははっ、そうかそうか｣
『あのっ、私、やっさんにいっぱい話したい事が───』
ずっと会いたかった。
その一心で言葉にしようとすれば、やっさんはAの口元に人差し指を当てて喋らないように制した。まん丸とした青い瞳はパチパチと瞬き、悲しそうに眉を下げる
｢悪ぃなA。おいちゃん、この接触は元々予定には無かったんだ。だから話を聞いてあげられる時間も無い｣
『やっさん……』
｢それに俺と会った事、誰にも言うんじゃねぇぞ｣
『え……』
｢約束出来るか？｣
優しい声。子供に言い聞かせる音は、遠い記憶の先に聞いた懐かしさを呼び彼女の胸を温かくさせた。
悲しさを唇と共に噛み、ゆっくりと頷く
するとやっさんは青い髪を梳く様に撫で、満足そうに笑った
｢良い子だ。そんなAちゃんには、コイツをプレゼント｣
懐に手を突っ込んだやっさんが取り出したのは、銀色のコイン。それは上品な女性の横顔が掘られており、何処かの国の銀貨のように思える
それをハグしていたAを引き剥がして、右手にしっかりと握らせた
『……？これは…？』
｢俺ぁ事情があってお前さんを近くで護れねぇ。だからコイツがお前さんを護ってくれる｣
『まも…る？』
｢あぁそうさ、効果は俺が保証する。あのヨコハマの兄ちゃん達や目の前の2人も護ってくれるだろうが、いつもいる訳じゃねぇだろ？今みてぇに思わぬハプニングで留守番なんて有り得る話だ｣
『うん…』
｢だからそん時はこれをギュって握ってろ。辛い時、怖い時、寂しい時、助けて欲しい時。最後には絶対ェ助けてくれるさ｣
一見ただの銀貨だ。だが彼の言葉を聞いていると本当の様な気がして、ギュッと両手で握りしめたAは嬉しそうに笑った
『分かったっ、肌身離さず持ってる！』
｢おうそうしてくれ。絶対手放すなよ、そうすると効果が薄れちまうからな｣
『うん！』
やっさんは役目を終えたと言わんばかりに立ち上がる。寂しそうにそれを見上げた彼女の表情に、彼は視線を一二三と独歩に向けた
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作者名：刹那 | 作成日時：2024年3月4日 0時
