1037話 火貂組の成り立ち ページ7
「子供が成長するのは早くてよぉ、気が付けば20歳なんてあっという間に越えてた。男手一つで育てるのは苦労したし、反抗期も勿論あったが、アイツが元気に夢の為に学校に行ってる姿を見たらそんな苦労なんざ屁でもねぇ」
悲しい話はあったが、子供が産まれて幸せに生きているのだとAは思わず表情が綻びる。しかし退紅は反対に険しいまま
「その頃には俺も組の上辺りにいてな。足を洗わねぇと娘に迷惑が掛かっちまう、だがお金がねぇとアイツに苦労させちまう。そんな風に悩み続けて、そろそろ娘が就職だからと足を洗う決断をした。そんな時だ────」
グ………と退紅の右手に力が入った。強く震える拳に並々ならぬ感情が込められていると、Aは覚悟して昔話の続きを待つ
「娘がよ………。────死んじまったんだ。自分で……死にやがった」
『っ……!?』
震えていた退紅の声。涙を堪えるようなその声に、どれ程の絶望が詰まっているのか。あまりに残酷な現実。息を詰まらせ、言葉を失ったA
「ずっと悩んでいたらしい。成績が伸び悩んでそれでも頑張ったってのに、思う様に点数が取れなくて行きたかった仕事に就くのが難しいと先生に言われたらしいんだ。俺にそれが言えなくて、薬に頼っちまった……」
退紅の視線がゴミ箱の方へと向けられた。何故娘さんが薬を手に入れられたのかAには分からない事だが、退紅なら分かってしまう事。
「俺を恨んでる奴らが、娘に甘い言葉で誘ってソレを飲ませやがった」
逆恨みだった。
退紅に勝てないからと命より大事な娘を狙い、ただ殺すだけじゃなくジワジワと追い詰める様な悪どいやり方で堕とした。娘さんがどれ程苦しみ、悩み、生きていたか計り知れない。気付いてやれなかった後悔に、退紅はただただ手に力を入れる事しか出来なかった
「2回も護れなかった……誓ったってのに。早くに足を洗えば変わってたかもしれねぇ……。今更思っても意味ねぇがな……。ちゃんと娘を殺した奴らには落とし前を付けたが、そんなの虚しく終わっただけ。俺の自己満足だ……」
Aは何と声をかければ正解なのか分からない。ただ静かに聞くことしか出来ない
「もう護りたい物も無くなっちまった。ただロクでなしの俺しか残ってねぇ。後を追う事を考えた時もあったが、それじゃアイツらに合わせる顔がねぇ。だから生きる事を選んだ。俺のシマでヤクを流す糞共を全部潰す為に。──────その為に火貂組を立ち上げた」
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刹那さんの小説ファン - 章公開おめでとうございます!これからもまったりマットリを堪能させていただきます! (1月8日 17時) (レス) @page50 id: af42dbf40e (このIDを非表示/違反報告)
刹那(プロフ) - 刹那さんの小説ファンさん» ありがとうございますm(*_ _)m 今回の更新で50話分溜まりましたので、次の章公開まで暫くお待ち下さいっ! (1月8日 11時) (レス) id: 474b3cc025 (このIDを非表示/違反報告)
刹那さんの小説ファン - 何度もすみません!最新の小説、更新された瞬間に見ることができました!これからも頑張ってください! (1月7日 20時) (レス) @page49 id: af42dbf40e (このIDを非表示/違反報告)
刹那(プロフ) - 刹那さんの小説ファンさん» 発狂して家宝にするレベルですか!?(笑) そう反応して下さる人は初めてで嬉しいですっ(*¯꒳¯*) (1月6日 22時) (レス) id: 474b3cc025 (このIDを非表示/違反報告)
刹那さんの小説ファン - お返事ありがとうございます!嬉しすぎてベッド叩きながら発狂してしまいました。スクショしまくって家宝にしますうううううう! (1月6日 18時) (レス) @page47 id: af42dbf40e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:刹那 | 作成日時:2023年11月29日 10時