1030話 不穏な贈り物 ページ50
『───あっ、美味しいです!』
「ハハッ、そいつァ良かった」
お茶を飲むと、上品な甘さと奥深い渋みで思わず素の感想が零れたA。淹れたお茶が好評な事に嬉しそうに笑う退紅は、腕を組み本題へと入る
「んで、お前戦争孤児だったらしいじゃねぇか」
『は、はい!』
「つまり学校にも行ってなかったんだな?」
『そう、ですね……。なのでまだ世の中の事で分からない事が多くて……』
「それにしてはしっかりしてんじゃねぇか。あんな血気盛んな野郎共に拾われて、グレるどころか中王区の女よりも上品で良い女になるたぁ、お前自身の元の性格の良さなんだろうよ」
『え、えぇ……!?そ、それは、ど、どうなんですかね……?』
「ハッ、それくらいで顔を赤くするなんざ可愛いじゃねぇか。だからアイツらも必死に護ろうとするんだろうよ」
組長としての威厳は仕舞われ、近所のおじいちゃんと喋っている様なラフな雰囲気。完全に肩の力が抜けたAだが、慣れない褒め言葉にあわあわ
そんな無垢な様子に笑いながらお茶を飲んだ退紅は、続けて口を開く
「左馬刻は元々イケブクロで愚連隊っつぅのをやっていやがった。俺と初めて会った時にゃ大事なモンを奪われたみてぇで、まるで鞘を失った刃だった」
予想外にも退紅の口から告げられたのは左馬刻の過去。雑誌にも載っておらず、本人からも聞いた事がないソレはAの興味を引くのに充分。ごくり、と唾を飲みじっと退紅の話を待っていた
「若ぇのに、身を滅ぼす生き方をするなんざ勿体ねぇ。丁度若頭の枠が空いたから、火貂組っつぅ鞘に入れたんだ」
『だから……左馬刻さんはここに……』
「おうよ。この世界は力がねぇと護りたいモノも護れねぇ。それは裏も表も同じよ」
ジロリ、と退紅は目に不穏な影を落とす。それを感じ取ったAは思わず背筋を伸ばし、何を言われるのか口を結んで構えた
「あの3人は、今は己の力で生きちゃあいるが、いつ死んでもおかしくねぇ奴らだ。それは分かってんな?」
退紅の冷たい言葉は、紛れもない事実。残酷だが、それを改めて認識させる、ある意味優しい問い掛けなのかもしれない。Aは胸の苦しさを感じながら重々しく頷く
『はい…』
「いつ居なくなるのか、なんて毎日怯えるのも辛ェだろ?そんなお前にこれをやるよ」
退紅は懐に手をやると、何かを取り出しAの前へ放り投げた
─────それは透明な小さい袋に入った白い粉だった
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作者名:刹那 | 作成日時:2023年9月29日 19時