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1029話 組長と2人きりの部屋 ページ49

マイクをAに預けた銃兎は、舎弟達の案内の下 部屋を出ていった

漸く2人だけになった部屋。退紅と向き直したAは、引き締まった表情でソファに座る


「やれやれ……随分と愛されてるみてぇじゃねぇか」

『そうですね。とても嬉しい事です』


照れず、真剣な面持ちで受け答えするAに、退紅は腕を組んで「うーん……」と唸る。何かやらかしたのだろうか、Aは口を結んで彼の様子を窺った


「さっきのがお前の素なんだろ?」

『えっ?』

「可愛らしい顔で笑ってたじゃねぇか。警戒する気持ちは分かるが、俺としては素でお前と話がしてぇんだよ」


カカッ、と笑う退紅。この場合どう応えれば良いのか分からないAは『あ……えと……』と言葉を漏らして悩む。
先ずはやんわり断るのが礼儀か……?素直に性格を出していいのだろうか……?
社会経験が未熟なAはタラタラと冷や汗を流して固まる


「ブハハッ、肩の力を抜け抜け。餓鬼共の前では真剣な話つったが、世間話をするだけだ。礼儀とかンなモン気にするんじゃねぇよ」

『えぇ…と……い、良いんですか?』

「おう、若い女と喋れるだけでジジイってのは喜ぶんだ。一々礼儀で怒んねぇよ」

『じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて……』


ぎゅ……とマイクを握り不安げな目で退紅を見やると、彼は満足そうに笑いゆっくりと立ち上がった


「客相手に茶ァ1つも出さねぇってのは申し訳ねぇ。今用意するから待ってろ」

『うぇ!?お、お構いなく!!く、組長さんが態々淹れるなんて……!!』


まさかの展開にAは立ち上がって止めに入るが、退紅は気にせず歩き出した。向かう先は壁際に設置されていた年季の入った水屋箪笥。おろおろしているAに背中を見せてゴトゴトと2個の湯呑みと緑茶のティーバックを取り出した退紅は、湯呑みにティーバックを入れて水屋の上に置かれていた電気ポットでお湯を淹れる


「気にすんなただのジジイって思ってろ。こっからはただの世間話、茶ァぐらい欲しいってもんだろ?」

『え…えぇ………』

「出来れば茶を点ててぇところだったが、道具は別室でなぁ。今部屋を出ちまえば餓鬼共が真っ先に来ちまう。コイツで我慢してくれ」


充分にお茶が抽出出来たのを確認した退紅は、ティーバックを捨てゆらゆら湯気が立ち上る湯呑みをAの前に置いて、彼女の肩をポンポンと軽く叩いた。

白い湯呑みに広がる鮮やかな若緑。優しいお茶の香りは緊張した体を優しく解していった

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作者名:刹那 | 作成日時:2023年9月29日 19時

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