1028話 明日もちゃんと弁当届けますよ ページ48
「っ……何で……お前は……」
『別に自分の命を軽く見てる訳じゃありません。私が死んだら悲しんでくれる人がいるって知ってます。だけど、左馬刻さん達と関わり続けるならこうしなきゃいけないって思うんです』
Aは安心させる為に空いた左腕を銃兎の腰あたりに回す。密着する体、感じられる温かい温度。銃兎は縋る様にAを抱き締めた
「馬鹿…野郎……ッ、ふざけんじゃねぇよ……」
───分かっている。自分も左馬刻や理鶯の様に感情を抑えて行動しなければならないと。だがもしもの事があってAを失ってしまったらと考えると恐ろしくて仕方がない。
自分が裏社会に浸かっているから、左馬刻が極道の若頭だから。こんな場面、何度も起こり得る事だ。分かっていた事だ。分かってて彼女を手放さなかった。なのにいざ向き合うと恐怖でしかなかった
「俺は……。俺は……ッ!!」
分かっていたつもりでも、分かっていなかった。Aの方がちゃんと自分の立場を分かっていた。立派に向き合っていた。自分の情けなさに銃兎は腕の力を込めた
交わされなかった指切り。徐に下がると、銃兎の背中に回りあやす様に摩った
『理鶯さんと今約束しました。ちゃんと守ります。そして明日もちゃんと弁当届けますよ』
「……当たり前だ。お前の弁当は美味いんだからこの先もずっと作り続けてくれ」
『えへへっ、了解です!』
落ち着いた銃兎はマイクを解除し、Aから離れる。完全に納得した表情では無いが、退紅の指示に従う気になった様だ
「い、入間さん……」
廉貞は心配そうに名前を呼ぶ。すると「えぇ…着いていきますよ」と感情を押し殺した声で応えた。
複雑な感情を抱いた舎弟2人は部屋を出て案内を始めた。1歩踏み出す前にAの顔を見た銃兎。彼は自身のマイクを彼女に差し出す
「Aさん、何かあった時用に持っていて下さい」
『えっ、ま、マイクを、ですか……!?』
「大声を上げるよりいいでしょう?ラップも勉強しているんですから、多少なりとも抵抗出来ますよ。起動音がすれば理鶯が反応してくれますし、御守りです」
Aの両手に慣れない質量が乗る。彼にとって大事なモノだ。今行われている大会に使うモノだ。それを預けられた。
Aはしっかりと握りしめて笑顔で返す
『はい!!もしその時があれば、使わさせて頂きます!!』
「ふ、いい返事です。───絶対、1人で何とかしようとすんじゃねぇぞ」
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作者名:刹那 | 作成日時:2023年9月29日 19時