1013話 大勢の歓声よりも聞きたい声 ページ33
DRB予選一回戦を終え、決勝トーナメントに一歩近付いたMTC。普通なら勝った事に喜び余韻に浸るモノだが、彼等にとっては当然の結果。聞こえる歓声に対して特に何も感情は湧かず、直ぐに銃兎の運転の下その場を離れた
今の3人にとって有象無象の歓声よりも、たった1人の純粋な言葉が大きく、一番聞きたい声なのだ
伝説のチームTDDであった左馬刻、組織犯罪対策として多くの犯罪者と戦ってきた銃兎、軍人として過酷な戦場を生き抜いた理鶯なので仕方ないかもしれないが、あまりにも敵が弱かったのでバトルの熱はとうに冷めていた。既に相手の顔すら記憶に無い程に
「今頃A何してんだろうなァ」
助手席で煙草を吸う左馬刻がぼんやり呟く。先程予選があったとは思わせない平和な切り出し。仲間2人もその雰囲気に当てられて穏やかに微笑んだ
「そうですねぇ……。ラビ君、という方に語り掛けてるんじゃないですか?」
「もしくは無機物と共に録画した映像をもう一度見ているのではないか?」
「貴方は頑なに名前を呼びませんよね」
「呼ばなくても良いだろう?あれは小官達が彼女に与えた物、どう呼ぼうと勝手だ」
「ハハハッ、お前嫉妬心剥き出しかよ」
「フッ、アレに嫉妬する訳がない。敢えて名前を呼ばないと、Aが可愛らしく怒ってくるのでな。思わず呼ばないようにしてしまうのだ」
「どういう理由だよ」
「小官達が贈ったモノを大事にしてくれていると強く感じないか?」
「色々と歪み過ぎて何とも言えません……」
「ふむ、そうか……」
「やっぱ伊達にCrazy Mって名乗ってねぇな」
言葉の意味が分からずコテン、と首を傾げた理鶯。可愛く思えないのか……?とクレイジーな軍人は目を閉じて過去の彼女を振り返った
────“A、小官がいるのにも関わらずその無機物を抱き締めるのか”
“ちょっと理鶯さん!無機物じゃないですラビ君です!”
“無機物なのは事実だろう?”
“これは銃兎さん左馬刻さん理鶯さんの気持ちが入ってるので有機物ですっ!”
“ふふっ、面白い返しだな……。だが長時間無機物に接触し続けるのは認められない。小官の下に来るんだ”
“何故ラビ君を敵視しているんだ……。もうっ!分かりましたよぉ!!”
完全に大人げないジョーク。しかし純粋な彼女は表情豊かにリアクションしてくれる。面白くて、可愛くて、ついつい理鶯はラビ君に対して辛辣な扱いをしてしまう
「………ククッ、可愛いと思うがな」
「目が怖ぇよ」
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作者名:刹那 | 作成日時:2023年9月29日 19時