1009話 もう見れない筈の懐かしい宝箱 ページ29
───“銃兎さんへ
お仕事お疲れ様です。
いつもヨコハマの治安を護るだけでなく、私に外の事を教えて下さりありがとうございます。
警察という仕事内容は詳しくは知りませんが、銃兎さんが所属する組織犯罪対策部は危険だと聞きます。銃兎さんが大きな怪我を負わないように祈り、元気の足しになるように作りました。
リクエストの卵焼き、味見したので自信持って美味しいと言えます。是非食べてお仕事頑張って下さい。
Aより。”
小さな紙の割りに長文が書かれAさんの気持ちが詰まっていた。可愛い不意打ちに思わず俺は歯を食いしばり、隠す様に左手で口元を覆う
「くッ……なんッ、ホン、んん゙ッ!!」
感情と言葉が追い付かない。周りに人がいる手前素直な感情表現が出来ず、俺自身も理解不明な声が指の隙間から盛れ出した。落ち着け落ち着け。これはジャブだ。ジャブでクリティカルヒットなのは先が恐ろしいが、ダウンする訳にはいかない
取り敢えずこの紙は後で隠れてラミネートだ。貴重なAの“初めて”の弁当で書いてくれた“俺宛て”の手紙。捨てるなんて言語道断、保管一択
深呼吸してからスープジャーと弁当箱を取り出しセンターコンソールに置く。そしてスープジャーを開ける
ふわっと広がる優しく懐かしい匂い。インスタントじゃ無い温かさがそこにはあって、それだけで表情が緩む。
そういえば、母さんの弁当を食べる時もこんな感情だった気がする。学校なんて給食だから、遠足や運動会でしか食べれない珍しい弁当は宝箱の様な輝きがあった
少年の気持ちに戻った俺は高鳴る鼓動を感じながら蓋を開けた
「──ッ!?………は、ははは……っ」
大袈裟かもしれない。だが仕方ない事だと思う。頬に流れる液体は無視出来ない。感情が溢れたのだから
「っ母さんの時もそう…だったなぁ……。俺を喜ばせようと…色んなキャラ弁とか作ってさ……」
料理が下手な俺でも分かる。海苔から切り取ってマークを作る事がどれ程難しい事か。それなのに彼女は俺らのロゴマークを作り上げた
ふと、母さんが頑張って弁当を作っていた後ろ姿を思い出した。その弁当には小さなグラタンのカップに占いがあったり、その時に見ていたアニメのキャラがいたり、喜んで完食出来る様な工夫が小さな箱に詰まってた。Aの弁当も俺が喜ぶ様に頑張ってくれた気持ちが詰まってる
────暫く俺は食べる事はせず、弁当を見つめ感傷に浸った。家族との記憶を思い出しながら
1010話 消えないように、滲まないように。→←1008話 後に陰で噂話、妄想話をされる警官
49人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:刹那 | 作成日時:2023年9月29日 19時