1005話 舎弟には隠したかった若頭 ページ25
─────所変わって火貂組事務所。
事務所で舎弟達からシノギの状況が纏められた書類を渡され静かに見定める若頭──左馬刻。煙草を吸いながら、ペラ……ペラ……とホッチキス止めされている紙を捲り、赤い瞳をゆっくり横に動かす。
カチコミ等の派手な行動の方が性に合う左馬刻にとって、この事務仕事は苦手とするモノ。短気な彼に対して、分かりやすい様に細かく文を書いたとしても“回りくどい”とキレられてしまうのが常。なのでこんなに静かであれば、書類を届けに来た舎弟達は恐れ、震えてしまう
…………のだが、今回は何処かカシラの機嫌が良く見える。それはこの部屋に入った舎弟全員が感じていた
「………ふん、まぁ良いか。もういいぜ、次のシノギ頼むわ」
「え、あっ、はいっ!失礼しました!!」
こんなに平和的に終わるなんて……。舎弟は戸惑いながら彼の機嫌が変わる前に急いで部屋を出て行く
バタバタと忙しない舎弟。それを鋭い視線で見送った左馬刻は、敢えて出していた圧を仕舞い穏やかな表情に切り替わった
ポケットからスマホを取り出し時間を確認。12時37分、昼食をとる時間だ。左馬刻にとって自身が休憩時間だと思えばそれは休憩時間になるし、昼食の時間と言えば昼食となる
キリもいいので立ち上がった左馬刻は、テーブルの大きい方の引き出しに隠していたランチバックを取り出して、部屋を後にした
途中、廊下で歩いていた何人かの舎弟とすれ違うが、恐ろしくて手にしている物を聞く人物は現れなかった。───というのも、朝に1人の舎弟が何気無く聞いた瞬間、“気安く聞いてんじゃねぇ沈めンぞ”と言う明らかな殺気を放ったので聞ける訳が無かった
玄関を開け、車が停めてある門の外へと歩いていると、シノギから帰ってきた廉貞と鉢合わせに。舎弟の中では比較的境遇が似ており話す事も多い2人。だからか、廉貞は怯える事無く微笑み「お気を付けて」と頭を下げた
「何かあったら連絡でも寄越せ」
素っ気ないが、彼の中では優しい方の態度で廉貞の横を通り過ぎる。数日前の機嫌の悪さが嘘のよう。元に戻るどころか、上機嫌になっている彼に対して嬉しさを感じた廉貞は、微笑みを続けたまま「畏まりました」と再び頭を下げる
その後外へと出ていった若頭を確認すると、ゆっくりと頭を上げる
「ふふ、一体誰がカシラに弁当を作ったんだろうか」
舎弟の中で唯一、彼だけが手にしていた物の正体を見破っていたなんて、左馬刻は気付かなかった
1006話 毎回俺様を喜ばせて来やがるな→←1004話 貴女は小官の上を行ってしまう
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作者名:刹那 | 作成日時:2023年9月29日 19時