1001話 そんな武器を持たせるつもりは無い ページ21
獲物を仕留めた後解体し、食材となった肉を下味をつけてから保管庫で熟成。ご機嫌に鼻歌を奏でながら野営地に戻れば、Aは“ラビ君”と呼ぶぬいぐるみを抱き締めて焚き火の前で椅子に座っていた。彼女もご機嫌な様で、返答出来ない無機物に何やら話し掛けていた
『───んですけど、ラビ君はどう思いますかね？』
最後の部分しか聞き取れなかったが、相談をしているらしい。小官がいるのにも関わらず声も出せない無機物に相談など意味があるのだろうか。疑問に思いつつ、彼女を驚かせないように控えめな大きさで声を出す
｢何か悩みでもあるのか？｣
『あっ、り、理鶯さん……お、おかえりなさいです…っ！』
びくっ、と肩を揺らしたAは何故か顔を赤くして小官の方に振り返る。小官の質問に答えたくないのか笑顔で誤魔化しているので、彼女の隣に椅子を移動させて座り、顔を覗き込んで再び尋ねた
｢小官の方が相談にも乗れるし提案も出来る。それとも小官には話せない事か？｣
じっ、と狼狽える青い瞳を見据えれば、より赤くする顔。その様子を見るに、自身を追い詰める様な重い内容ではなさそうだ。だがここまで来てしまえば気になるモノ。視線を逸らさず見つめ続けると、逃げる様にぬいぐるみを赤い顔の前に上げ隠されてしまった
しかしポツリとぬいぐるみの奥から控え目な声が聞こえる
『…も………ど……かなって……』
｢む？｣
聴覚は良い方だと思っていたが、焚き火の爆ぜる音と同レベルの声だったので途切れ途切れにしか拾えなかった。首を傾げると、意外にも彼女は答えてくれた
『も、もし……わ、私がヒプノシスマイクを持ったとして……ど、どんなアビリティがあるのかなって……。そ、そも、そも……アビリティなんて限られた人しか使えないですけど……ね、あはは……』
ぬいぐるみの奥からひょっこり出てきた照れくさそうな彼女の顔
成程。どういう経緯でその考えになったのかは不明だが、確かにもし彼女がヒプノシスマイクを手にしたらどの様なマイク、スピーカー、そしてラップアビリティが顕現するのか。興味はそそられる
｢ラップアビリティは限られた者しか発動出来ないが、貴女に可能性が無い訳では無い。生まれ持った才能で使える者もいれば努力で手にする者もいる。………一体貴女にどんな能力が顕現するか見てみたいものだ｣
────だが貴女にそんな武器を持たせるつもりは無い。微笑みの下で静かに言葉を飲み込んだ
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作者名：刹那 | 作成日時：2023年9月29日 19時
